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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第8章 ひきこもり、真実を知る

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閑話・アーニャさんのひとりごと

今回の閑話は、司法部長官のアーニャさん。

サウロ王国一の魔法使いのおば様です。


空間魔法を使った『引き合う力』の実験により異世界から物を引き寄せる事に成功したり、ラトス救出の為に帝国行きのメンバーとして一緒に旅をしたりと、主人公ヤモリ君とはかなり縁が有ります。


 この世界には『魔力がある者』と『魔力がない者』がいる。その違いは本人の努力や才能ではなく、単なる血筋。過去に存在していた魔法使いの子孫である、サウロ王国の古参貴族の血筋という事のみ。


 古い文献によれば、魔法使い達が魔獣ばかりのこの大陸を人間が住めるようにした。その時の指導者が王となり、それ以外は貴族の位を賜り、以来この地を治めてきたとかなんとか。


 魔法使いは何もない所から火や水を生み出し、風を起こし、雷を呼ぶ。まさに神の奇跡。


 ……使える側からすりゃあ、手足を動かすのとあんまり変わらないんだけどねェ。


 もちろん魔力があるからって訓練も無しに魔法が使える訳じゃない。例えば、アタシの弟は不器用だから頭の中で事象を思い描けず、自分の身体強化しか出来ない。そのおかげで軍人としては出世したけれど、あれが果たして魔法使いと呼べるかどうか。


 アタシは幼い頃から一族の中でも飛び抜けて魔力が多かった。制御が難しく、屋敷を何度も半壊させたっけ。


 その当時はまだ貴族学院に魔法学の授業はなく、魔力制御のやり方は親から教えてもらうのが普通だった。でも、アタシの両親はあまり魔力が多くはなく、制御に困った経験が無かった。つまり、何の参考にもならなかった。


 仕方ないから、暴走する前に魔力を使い切るしかなかった。ブラゴノード家所有の田舎の領地で、周囲に誰も住んでいないような荒れ地のど真ん中に足を運び、消費魔力の大きな魔法をどんどんブッ放したりね。


 その結果、魔力の最大値が上がっちまった。


 まあ、魔力過多には散々悩まされたが、魔法自体は上手く使えば便利だし嫌いじゃなかった。折角だから魔法で何でも出来るようになりたいと思うようになった。


 身内に頼んで得意な魔法を見せてもらい、話を聞いて参考にするうちに、だんだんと他人の頭の中が覗けるようになった。これが共感魔法の始まり。本人が心を開いてくれないと使えないが、これのおかげで魔法の習得が容易になった。


 ブラゴノード家の領地は北のラジャード州にあり、王都の屋敷からはかなり離れている。険しい岩山に囲まれていて、手紙や荷物のやり取りに時間が掛かる不便な地域だ。


 その不便さを何とかしようとして空間魔法が生まれた。空間魔法は古い文献にも記されていない、アタシ独自の魔法だ。まさか、将来異世界と物のやり取りをするようになるとは思わなかった。


 共感魔法と空間魔法、といえばヤモリだ。


 一度異世界の記憶を見せてもらった事がある。ヤモリ自身はヒキコモリ?らしいので、自室と窓から見える景色だけではあるけれど。


 飾り気のない、物で溢れた狭い室内。


 窓から見下ろす整然とした街並み。


 王宮や司法部の塔より高い建物。


 空飛ぶヒコウキ、馬無しで走るクルマ。


 こちらの世界には存在しないものばかり。限られた人間だけが使える魔法ではなく、全ての人々が使う事ができる機械。どちらが便利な世界なのかは考えるまでもない。


 異世界に興味を持ち、研究を後押しし続けてきた陛下の気持ちが少し分かった気がした。







 先日、エニアの娘が魔力過多で司法部に連れて来られた。その時に対策用として見せた魔力貯蔵魔導具が大き過ぎて不評だったから、持ち運び出来るものを作らせた。


 しかし、小型軽量化というのは難しい。


 単に小さくするだけでは肝心の魔力の貯蔵量が減ってしまう。土台となる魔力を溜め込む性質のある金属の純度を高める事で、貯蔵量を保ったまま軽量化する事には成功した。


 しかし、今度は術式を刻み込む場所が狭くなってしまった。そこで、部下を何人か彫金師に弟子入りさせて、細かな文字を刻めるようにした。


 そこまでやって完成したのが、手のひらに収まる大きさの魔力貯蔵魔導具だ。これが帝国行きの際に非常に役に立った。もし元の大きさの魔導具しかなかったら、ヤモリに持たせる事が出来なかっただろう。魔導具改良の機会を与えてくれたマイラ嬢には感謝しかない。


 だが、その魔導具があったからこそ、ヤモリが後先考えない行動を起こしたと言っても過言ではない。


 腕輪型魔導具に付けられていた傷。敵を油断させる為に、ワザと竜に噛ませたというじゃないか。


 もし、腕輪の術式が機能しなくなっていたら。


 もし、魔力貯蔵魔導具の魔力が切れていたら。


 ひとつ間違えば、ヤモリの腕は無かった。


 怖がりな癖に、こんな時だけ危ない真似をする。


 ──これは記憶を読んだアタシにしか分からない事かもしれないが、ヤモリが元いた場所は平和そのものだった。


 魔獣もおらず、戦争もなく、危険とはかけ離れた生活をしていたはずだ。そんな中で育ったら、身を呈して戦うような真似は出来るはずがない。


 もしかしたら、ヤモリは自分の命に執着していないのではないだろうか。自分は周りの人間より価値がない、役にたっていないと思い込んでいるのではないか。そう思ったら、ちょっと悲しくなった。


 アタシには子供はいないから母性とかそんなものはないんだけど、子供が体を張るのだけは間違ってると思う。


 シェーラ王女に関しては、本人の強い意志と実力があったからいいんだけどね。


 ヤモリは魔法が使えないし、武器も扱えない。でも妙に芯が通ってる。まるでバエル教の教義のように、人と人を繋ぐ何かを持っている。他人と関わろうとしない代わりに、近しい人間に対しては自己犠牲の精神で尽くそうとする。


 どういう育ち方をしたらそうなるのかねェ。






 そういえば、怪我や病気を治す魔法がない事に驚いていたっけ。


 そんな魔法があったら確かに素晴らしいけれど、アタシにはいまいち原理が理解出来ない。過程や結果が思い描けないものは具現化は不可能。そもそも、治療に使うのならば他者を実験台にする必要がある。もし失敗した場合を考えると、人に向けて魔法を使う事には抵抗がある。


 ヤモリに見せてもらった、記憶の中の映像。『げーむ』とかいう人が作り出した架空の映像だと言っていたが、あんなものを作れる事自体が魔法だ。


 回復魔法以外にも幾つか見せてもらった。攻撃魔法はアタシやカルカロス、アリストスが使うようなものがあった。


 それにしても、異世界には魔法は存在しないと言っていたのに何故魔法という概念があるのか。今は滅んでしまっただけで、過去に魔力持ちが居たんじゃないのか。


 異世界からこちらの世界に転移するように、こちらの世界からも異世界に転移した者が居たのかもしれない。


 ごく稀にとはいえ転移者が発生している以上、世界を渡る方法や条件が必ずあるはずだ。アタシの空間魔法では、今のところ小さな物しか転移させる事が出来ない。もっと多くの異世界の情報を集めれば何とかなるだろうか。


 何人かの異世界人から記憶を読ませてもらえれば、異世界の座標がより正確に分かるはずだ。……ヤモリは元の世界では全く家から出なかったらしいから、情報が足り無さ過ぎる。


 帝国側に味方している異世界人、イナトリとかいう少年の記憶が読めたらいいんだけど、かなりの問題児らしいから余り期待は出来ないねェ。






 さぁて、そろそろ開戦だ。


 ヤモリとシェーラ殿下がノルトンに移動したら、もう遠慮する必要はない。調子に乗ってる帝国の奴らを叩きのめして、二度とサウロ王国に逆らわないように躾けてやらないとねェ。

アーニャさん目線のお話でした。


7章と8章に登場したキャラ紹介を挟み、第9章に移ります。


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