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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第8章 ひきこもり、真実を知る

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115話・帝国からの使者

 国境の壁沿いに魔獣対策の罠を稼働させてから数時間後、早速魔獣が掛かったとの報告がきた。


 場所は僕達のいる第四師団の拠点から数キロ離れた地点。


 百数十匹もの魔獣が殺到し、前にいる魔獣を踏み付け、それを繰り返して高さ五メートルの壁を乗り越えてサウロ王国領へと侵入してきたのだ。


 しかし、乗り越えた先に作られた堀に落ち、次々と感電していった。感電した魔獣の上を通る魔獣も感電し、動けなくなっていく。


 見張りの兵士は、全ての魔獣が行動不能になったのを確認してから、堀から引き上げてトドメを刺す。数が多いので、後始末には人手が要る。感電した魔獣を放置したら堀が埋まってしまう。罠に掛かったら速やかに退けなくてはならないからだ。


 慣れないうちは、作業中に誤って堀に落ちた人も居たらしい。それでも、以前と比べれば、負担はかなり減ったという。やはり、魔獣と直接戦わずに済むのが大きい。


 この罠が作られるまでは、数時間から半日おきに魔獣の群れと戦う生活を送っていたのだ。交代制とはいえ、連日の魔獣退治はキツい。これ以上戦い続けていたら、ユスタフ帝国と戦う前に全員疲れ果ててしまうところだった。


 帝国側の狙いは絶対それだよな。魔獣を差し向けて戦わせ、兵力と士気が下がった時期を見計らって攻め込むつもりだったに違いない。


 今後は思い通りにはさせない。


 アーニャさんは明日に向けて体を休めている。国境の壁を一部破壊して、軍勢が通れるようにする為だ。かなりの魔力を消費するから、今日は魔法を使わずに過ごす予定だ。


 魔力貯蔵魔導具に魔力を注ぎ過ぎて寝込んでいたアリストスさんは、半日寝たら復活した。今は学者貴族さんの後をしつこく追い回してウザがられている。


 シェーラ王女は拠点内を見回り、労いの言葉を掛けて士気を高めている。幼いながらも王族として立派に役目を果たしている。


 辺境伯のおじさんは、ラトスの様子を見にノルトンへ行った。馬を全力疾走させれば数時間で着くんだとか。ラトスの事は僕も気掛かりなので、戻ってきたら詳しく話を聞かせてもらおう。


 昨晩の新種の魔獣の件で、各地に注意喚起する為に団長さんも出掛けている。


 僕もノルトンに行けば良かったかも。


 拠点内をウロウロしていると、休憩中の兵士さん達から声を掛けられるようになったからだ。彼等は、僕がひとりでドラゴンを撃退したと誤解している。いちいち弁解するのも面倒なので、愛想笑いしながらその場を立ち去っている。


 注目されたり話し掛けられたりするのは苦手だ。


 仕方ないから、食事やトイレ以外は自分の天幕に引きこもっている。まだ帝国領に居た時の疲れが取れていないので、暇さえあればずっと寝ている。


 明日、壁を壊して攻勢に出る。


 みんな強いから、きっと帝国に勝てる。帝国さえ倒せば、これ以上魔獣が人工的に生み出される事は無くなるはずだ。


 そう思っていた。






「帝国の使者だと!?」


「は。場所と時間を指定しての代表者会談を提案してきました」


「……これまで、こちらからどんなに呼び掛けても無視を決め込んでおったというのに、どういうつもりだ」



 突然の報せに、第四師団長ブラゴノード卿は眉間に皺を寄せて唸った。すぐさま拠点内にいる兵士長クラス以上の者が大型天幕に集められた。


 ユスタフ帝国は、二十年前の戦争時から国交を絶ち、ずっと対話を拒んできた。非武装の外交担当者が国境に近付いただけで弓を射掛けてきた程だ。


 そんな帝国が、この時期に使者を寄越してきた。裏が無い訳がない。



「現在、使者の方には南端にある天幕にてお待ちいただいております。どう致しましょう」


「どう返事をせよと言うのだ。よりにもよって代表者会談とは……!」



 代表者というのは、それぞれの陣営の一番偉い人の事だ。現在、この拠点の代表はシェーラ王女となっている。王様が到着するまでの名代だが、この場合はシェーラ王女が会談に臨む事となる。


 帝国側が指定した場所も問題だった。国境を越えた向かいにある、帝国側の野営地。思いっきり敵陣営だ。


 日時は今日の夕刻。あと数時間しかない。王様の到着や辺境伯の帰還を待つ間もなく、すぐに決断して返事をしなくてはならない。


 帝国の使者は、更に条件を付けてきた。


 異世界人、つまり僕の同席だ。


 何故僕まで呼ばれるのだろうか。またイナトリが絡んでいたら嫌だな。この前の事を恨まれていそうだし。



「殿下とヤモリ殿を再び敵地に行かせる訳には」


「そのような申し出、断ればよかろう!」



 師団長達は怒り狂っている。


 しかし、これは戦争を回避する最後のチャンスなのかもしれない。無碍に断ったら、和解の道が閉ざされてしまう。


 王国軍トップのエニアさんか前軍務長官の辺境伯のおじさん、または王様が居たら良かったんだけど、残念ながら不在だ。


 せめて会談を明日へずらすか、場所を国境に移したい。そう使者に伝えてみたが、交渉に応じる事はなく、ただ諾否の返答を待つのみだという。


 回答を引き延ばせば、この話は無かったになる。その上で、こう脅してきた。



「ここで話し合いに応じねば、帝国民が最後のひとりとなるまで争いは続くことになりましょう」



 それは、最悪の場合、全ての国民を餌にして魔獣を増やすという意思表示だ。これまでの比ではない数の魔獣が生み出される。そうなれば、サウロ王国だけの問題では済まない。近隣諸国にも被害が拡がる恐れがある。


 今までならば、こういった脅しは一蹴出来ていただろう。しかし、昨夜拠点を襲撃してきた新種の魔獣。アレがまだ帝国側にいるとしたら、かなりの脅威だ。



「代表者会談、お受けしましょう」


「で、ですが殿下!」


「断ったり、返答を延ばしては何をされるかわかりません。取り敢えず話を受けて時間を稼ぎましょう」



 シェーラ王女は全く動じていない。これも想定の範囲内だったのか。



「ヤモリさんも一緒に行く事になりますが、よろしいですか」



 十一歳の女の子が行くというのに、僕が拒否する選択肢はない。



「……わ、分かりました。僕も行きます」



 ホントは怖いけど仕方ない。



「では、そのように使者の方に伝えてください」


「はっ」



 帝国側の使者はこちらの返答を持ち帰った。会談の時間が近くなったら迎えを寄越すと言い残して。


 敵対国とはいえ国を代表して会談に臨むのだ。一国の王女として、それなりの格好をせねばならない。王都を出る際にメイドさん達から無理やり持たされ、拠点に置きっぱなしになっていたドレスが役に立つ。


 シェーラ王女は身支度を整えに自分の天幕へと下がった。


 例によって兵士の随行は許されていない為、王族の隠密さん達が護衛として、姿を隠して同行する事となった。



「ヤモリさんには自分(ジブン)が付いてくっす」


「ありがと、助かるよ」



 間者さんが来てくれるなら心強い。


 学者貴族さんとアリストスさん、アーニャさんは留守番となった。万が一、敵陣営で囚われてしまったら人質が増えてしまうからだ。戦力は出来るだけ残していきたい。


 兵士や騎士を引き連れていく事は、相手を刺激するだけだ。念の為、すぐに駆け付けられるよう完全武装した部隊を国境付近に控えさせる予定だ。


 会談の時間までに王様が来てくれたらいいんだけど、多分間に合わない。


 向こうからどんな話を持ちかけられるか分からない。とにかく明言を避け、時間を稼ぐよう心掛ける事となった。



「腕輪の修理、間に合わなかったねぇ」



 僕の左手首の腕輪は、盗聴阻害と風の障壁の魔導具だ。風の障壁は敵意ある攻撃を弾く効果があり、帝国領にいた時には何度も僕を助けてくれた。先日ドラゴンに噛まれてやや凹んだままになっている。



「無茶な使い方をしたら壊れるからね」


「は、はあ」



 会談って、要は話し合いだよね?


 腕輪を使うような状況になるかな???


 直接腕輪に魔力を籠めながら、アーニャさんから何度も念を押された。心配してくれているのは分かるけど、僕だって好きで危ない目に遭ってる訳じゃない。



「僕よりシェーラ王女の方が身を守るものが必要じゃない?」


「勿論、殿下は普段から身に付けてるよ。アンタも不用意に触れたら危ないからね」



 そうだったのか。そりゃそうか、王族だもんね。


 聞けば、僕の腕輪に追加された風の障壁みたいな魔導具が幾つかあるらしい。見た目は普通のアクセサリーだし、魔力がない人が持っていても発動しない。奪われても悪用されないタイプなんだとか。


 僕は魔力持ちではないから、腕輪の土台部分が魔力を溜め込む性質の金属で作られた魔導具を支給されている。腕輪内に魔力があれば使えるので、奪われるのを防ぐ為に簡単に外せないように加工されている。


 これまで動力は魔力貯蔵魔導具で補っていたけれど、キューブは二つとも魔獣対策の罠の維持に使っている。


 つまり、腕輪内の魔力が尽きたら使えなくなる。



「あちらでは殿下の側から離れないようにしな。腕輪に軽く触れて貰えば魔力は補充出来る」


「わかりました」



 代表者会談ということは、あちらは皇帝が出て来るはずだ。間者さんの話によれば、白髪(はくはつ)の少女だという。


 あまり見苦しい格好では失礼になるので、僕は新しい服に着替えるなどして身支度を整えた。


 午後、帝国の使者が迎えに来た。


 みんなに見送られ、シェーラ王女とアークエルド卿、僕と護衛の間者さんが帝国領へと入った。

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