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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第8章 ひきこもり、真実を知る

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113話・新種の魔獣

 目の前のやや大きな天幕の上には、大型犬のような姿の魔獣が乗っていた。



「すぐに片付けてやる」



 仕留める為に両掌を構え、学者貴族さんが雷を出す。が、それはすぐに間者さんによって止められた。



「ちょ、獣が乗ってる天幕(アレ)、王女サマの!」


「えっ!?」



 まさか、目の前に建つやや大きめの天幕、シェーラ王女が使っているものなのか。それはマズい。


 もし魔獣が暴れて骨組みが崩れたりしたら、中にいるシェーラ王女が危ない。しかし、今から避難させるには無理がある。


 これまで何の反応もないところを見ると、騒ぎに気付かず寝ているのかもしれない。下手に騒がれても困る。


 この魔獣は、今まで見てきた魔獣と何かが違う。さっきの攻撃の威力も凄かったし、下手に動けば全員危ない。


 見上げながら、どうするべきかと迷っていると、また赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。月がないから姿は見えないけど、やはり上空から聞こえる。


 すると、急に魔獣が唸り出した。


 身体中の毛を逆立てて、天幕の布を引きちぎらんばかりに爪で掻き毟っている。どちらにせよ、放っておいたら危ない。襲い掛かってくる前に仕留めなければ。


 このままでは天幕が破られてしまう。


 まずは魔獣の居る場所を移そうと考え、隠密さん達が手持ちの短剣を投げるなどして気を引いた。一層唸り声を大きくした魔獣が僕達目掛けて飛び降りようとした瞬間、身体が炎に包まれた。そのまま下へと転がり落ちる。


 炎を消そうと、必死に身体を地面に擦り付ける魔獣。しかし、炎の勢いは全く収まらず、更に激しく燃え出した。


 あまりの出来事に茫然としていると、件の天幕からアーニャさんが出て来て僕達を睨み付けた。



「アンタ達、なにやってんだい! さっさとトドメを刺しな!」


「あ、ああ……しかし」



 そう言われても、魔獣は燃え盛る炎の中だ。下手に手出しをしたらこっちが火傷を負ってしまう。


 隠密さんの一人が意を決し、近場にあった長剣を使って魔獣の脚を刺し貫いた。手足に炎が触れているにも関わらず、隠密さんは熱がる素振りを見せず、衣服も燃えていない。


 あ、これ幻覚か!


 そういえば、近くで燃えている割に熱さを感じない。これはアーニャさんの幻覚魔法で生み出された幻の炎だったんだ。勿論、魔法の対象である魔獣は熱と痛みを感じている。


 そうと分かれば怖くない。他の隠密さんも武器を取り、未だ幻覚の炎に包まれたままの魔獣に対して次々と剣を突き刺していった。その度に断末魔のような咆哮が響く。


 魔獣は非常にしぶとく、数十本の剣に貫かれ、仕上げに雷を落とされて漸く息絶えた。



「……倒した?」


「恐らくな」



 僕は間者さんの陰に隠れて震えてるだけだった。慣れたかなーと思ったけど、やっぱり魔獣は怖い。



「助かったぞ長官」


「ああ。コイツが真上に来てくれて丁度良かったよ。お陰で幻覚が強く効いた」



 シェーラ王女の天幕にはアーニャさんも一緒に居たんだ。天幕の上、つまりアーニャさん達のすぐ側に魔獣が居たからこそ、警戒される事なく至近距離から魔法を掛ける事が出来た。


 たまたま魔獣が乗っかったのが、アーニャさんがいる天幕でラッキーだった。



「……もう終わりましたの?」



 シェーラ王女が出てこようとしたが、天幕の前には惨たらしい魔獣の死骸がある。王族の隠密さん達によって阻まれて外には出てこれなかった。多分、寝間着のまま外に出ようとしたから止められた、というのもあるだろう。


 姿を見せる代わりに労いの言葉を掛けてくれた。



「さて。あっちも片付いたようだねぇ」



 アーニャさんが後ろを振り返る。そっちは拠点の北側のエリア、魔獣が侵入してきた方角だ。


 すぐに第四師団の兵士さん達がやってきて、魔獣の死骸を片付けていく。血が染み込んで汚れた地面は土を取り除き、抉れた場所には新たな土を運び込んで均された。これなら、翌朝シェーラ王女が見ても大丈夫だ。


 兵士さん達が全ての天幕や仮設小屋を点検し、他に潜んでいる魔獣はいないか調べて回った。その結果、拠点に侵入してきた魔獣は全て倒した事が分かった。



「はぁ〜、なんちゅう厄介な魔獣じゃ!」



 大型天幕に戻ると、辺境伯のおじさんが肩を回しながら愚痴をこぼしていた。どうやら、かなりの苦戦を強いられたらしい。アークエルド卿も疲れた様子だが、怪我はしていなかった。


 第四師団長のブラゴノード卿もいる。騒ぎを聞いて起きてきたのだろう。今夜は非番だというのに気の毒な話だ。



「まさか拠点が狙われるとはのぉ」


「ホントだよ。しかも夜中に来るなんてねェ」


「白の魔獣ばかり、八匹もおった」


「うへぇ……」



 思っていたより多かった。


 魔獣対策の罠の準備は整ったけど、まだ実行されていない。その為これまで通り、国境には二十四時間&交代制で兵士さん達が警備をしている。どの時間もかなりの数で警備しているので、魔獣を撃ち漏らす事はなかった。


 だけど、今夜は違った。


 いつもの魔獣に加え、同時に別働隊が拠点を襲撃。しかも、一番強い白の魔獣ばかり。



「兵士が数十名、かなりの傷を負った。命には関わらんと思うが……」



 辺境伯のおじさん達が駆け付けるまでに襲われた人達だ。死者が出なかったのが奇跡みたいなものだ。重傷者は全員、既に馬車でノルトンに運ばれたという。



「国境に出た魔獣の群れには白の魔獣はおらんかったと報告が上がっとる。強いのだけ拠点(こっち)に寄越して襲わせたという事だな」


「帝国の奴等、どんだけ魔獣を飼っとるんじゃ! これまで何千と倒しとるのに、どんどん湧いてきよる!!」



 辺境伯のおじさんの言葉に、学者貴族さんが眉根を寄せた。僕もその件についてはちょっと思う所がある。


 帝国領にいる間に見た無人の街と、その郊外で見た光景を思い出す。



「……帝国は自国民を獣に喰わせ、魔獣を生み出している。一人の犠牲につき一匹の魔獣が造られるとしたら、最大で何万か十数万かになるやもしれん」



 学者貴族さんの言葉に、師団長達が難しい顔で息を吐いた。


 これまで倒してきた魔獣の数は、以前の魔獣大量発生の分も合わせて一万に届くかどうか。前線の兵士さん達は連日大量に押し寄せる魔獣を何とか倒してはいるが、疲労が蓄積している。こんな生活は長くは続かない。


 それでも、いつか魔獣を殲滅出来ると信じて戦っているのだ。無尽蔵に湧いてくると知ったら、心が折れてしまうかもしれない。



「いや、流石に帝国も国民が居なくなったら、戦争に勝っても意味がないのではないか? そもそも、そんな事をされて民が大人しく従うとは思えん」



 それなんだよなぁ。


 帝国が自国民を犠牲にした結果、二十年前の戦争時に近隣国に亡命する人達が後を絶たなかった。キサン村の人達だけじゃない。他にもたくさん居るはずだ。


 でも、帝国領の、帝都に近い大きな街では住民が普通に生活していた。とても魔獣が溢れた国とは思えないくらい平和に見えた。一体どういう事なんだろう。



「とにかく、魔獣については明日発動する罠で暫くは凌げるはずだ。その間に陛下をお迎えし、態勢を整えて攻勢に出る」


「うむ、そうじゃな」



 ここで僕達はそれぞれ自分の天幕に下がった。


 拠点の内外では兵士さんが巡回を強化し、篝火の数を増やしてくれていた。


 でも、緊張して眠る事が出来なかった。






 翌朝、明るくなってから拠点の外に運び出された魔獣の死骸を見に行って驚いた。全部白の魔獣だと思っていたが、明るい場所で確認したら数体は明らかに違っていた。


 まず、体毛の色が白と赤の二色。返り血や出血のせいではなく元々の体毛が、だ。頭や背中は白く、下腹から脚にかけて赤くなっている。狼や猿、犬など種族は違うが、昨夜拠点を襲撃した八匹のうち、五匹の魔獣の体毛がそうだった。


 それと、額の角。これまで見た魔獣の角は、小指の先くらいの小さなものばかりだった。しかし、今回の魔獣はみな黒く大きな角が生えていた。


 昨夜は気付かなかった違いだ。



「これ、もしかして新種なんじゃないすか?」


「え。怖い事言わないでよ……」



 新種だとしたら、白の魔獣より強いって事?


 魔獣と戦い慣れているはずの辺境伯のおじさんとアークエルド卿が苦戦したのも、そのせい?


 昨晩、もしアーニャさんが居合わせていなかったらどうなっていたか。想像したら怖くなってきた。幻覚魔法が効いたからすんなり倒せたけど、普通に剣で相対したらかなりヤバいと思う。


 多分、一般の兵士では太刀打ち出来ない。


 そして、そんな強い魔獣を操っていた、赤ちゃんの泣き声の存在。いつのまにか聞こえなくなっていたから忘れていたけど、魔獣に拠点を襲わせたのは間違いなくあの泣き声だ。


 新種の魔獣と、謎の泣き声。


 不安の元が増えていく。


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