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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第8章 ひきこもり、真実を知る

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111話・魔獣対策 2

 もう一度大型天幕へ戻り、魔獣対策案として正式に提案する事にした。どうせなら最も効果のある場所と方法で実行したい。それには、みんなの意見を聞くのが一番だからだ。


 辺境伯のおじさんと師団長達、団長さんに伝えると、早速罠の設置場所についての話し合いが始まった。



「国境の壁を破壊した箇所から侵入してきた魔獣を、この雷の罠で捕らえれば良いのでは?」


「いや、壁から入ってすぐの場所に仕掛ければ、後続の魔獣は警戒して寄ってこなくなるぞ」


「では、ある程度侵入させてから罠に?」


「ううむ。しかし、あまりこちら側に入れたくはない。万が一の時のことも考えておかねばな」



 やっぱり設置場所にはかなり気を使うみたい。


 帝国からやってくる魔獣の群れは、恐らく何者かに操られている。もし気付かれたら、罠を避け、それ以外の場所からの侵入を命じるだろう。


 そうなれば、これまでのように長い長い国境の壁の何処から魔獣がやってくるか分からなくなる。つまり、警戒に当たる兵士を削減する事が出来なくなってしまう。


 一気に帝国側に攻め込む為には、まず兵士の数を確保したい。それには、魔獣対策は決して疎かには出来ないのだ。


 何処か一箇所に罠を仕掛けても、相手に気付かれたら終わり。そうならないようにするには、どうしたら良いか。



「……壁全体を濡らして雷……って、無理かな」


「いや、それは流石に無理だな。水が途切れれば雷が伝わらん」


「ですよね」



 元の世界では、害獣から作物を守る為に畑を柵で囲う。それでも柵を破ったり、越えてくる害獣が居れば、柵に電流を流して触れなくする事もある。


 だけど、国境の壁は石で作られている。電気は通さない。


 だったら、どうするべきなのか。



「じゃ、壁沿いに川みたいに水を流して、そこに雷を落とすっていうのはどうかな」


「ふむ。それならば広範囲に行き渡るか?」


「こちらは痺れて動けない魔獣にトドメを刺すだけで済む。うまく行けば、国境に張り付く兵士の数をかなり減らせますな」



 師団長達は、このアイデアに賛同してくれた。あとは、これが実現可能かどうかの問題だ。



「今のままじゃあ、水を出しても溜まる事は無い。浅くても構わないから、幅広の堀を作ってもらいたいねぇ」


「その作業は駐屯兵団が。ウチには農具の扱いに慣れた者がおります。すぐ手配しましょう」



 駐屯兵団は、住民が避難して無人になった村の管理も任されている。畑を耕したり、家畜の世話をしたり、いつ住民が帰ってきても今まで通りの生活が出来るようにサポートしている。だから、兵士だけどクワやスコップの扱いに慣れている人が多い。農村出身の兵士もいる。


 しかし、国境の壁沿いとなると範囲が広い。大変な作業量になる。



「じゃあ、堀作りに参加する人員が揃ったら呼んでおくれ。作業の前に身体強化を掛けるから」


「何人か木材を調達に行っとったな? 仮設の門も作るなら多めに要るじゃろう。そちらも頼むぞ、ラキオス」


「はっ。ただちに」



 道具と兵士の確保、それとキサン村に行った隊に連絡を取る為に、団長さんは一旦天幕を後にした。


 帝国側に大量に兵士を送り込む為に、国境の壁を壊す必要がある。当初は分散して襲ってくる魔獣を一箇所に誘い込む意図があった。


 でも、この罠が上手く行けば、壁を壊した跡地は兵士の出入り口として利用出来る。駐屯兵団が切り出してきた木材で、そこに門を作ればいい。


 なんとかなりそうだ。





 翌朝、大量に運ばれてきた木材を加工する職人の姿が拠点の至る所にあった。ノルトンや近くの街から集まってきてくれた人達だ。


 堀作りの為の道具持参の若者達の姿もある。



「兵士さん達が万全の状態で戦えるよう、雑務や力仕事はオレらが請け負います!」


「いつも守ってもらってる恩返しです!」



 普段から駐屯兵団に世話になっているそうで、話を聞いた全員が自発的に手伝いを申し出てくれたらしい。


 それでも、国境付近は危険な場所だ。ここに来るにはかなりの覚悟と勇気が必要だったはずだ。



「実は、シェーラ様がこちらにいらっしゃると聞いて。姫様が戦場に居るというのに、オレらがビビって安全な場所で守られてる訳にゃいきませんよ!」



 なんと、ここでもシェーラ王女の影響が。


 地位の高い人が自ら危険な場所に身を置いているという状況が周りを動かしたのだ。


 その話を聞いたシェーラ王女は、作業に当たる兵士や一般の領民の前に姿を見せ、労いの言葉を掛けて回った。士気が上がりまくったのは言うまでもない。


 堀作り担当の百数十名には、アーニャさんがまとめて身体強化を掛けた。これは一時的に筋力を増大し、肉体を頑丈にする魔法だ。兵士さん達とは違い、彼らは普段鍛えていないので、弱めに掛けているという。


 しかし、絶大な効果が表れた。



「では打ち合わせ通り、これから複数の馬車で担当の場所まで運ぶから乗っ──」


「うわあああ! じっとしていられねぇ!! オレら走っていくんで送迎はいらねぇです!!!」


「ば、馬鹿! 作業中に魔獣が出たらどうするんだ! 兵士から離れるなー!!」



 慣れない身体強化で活性化し過ぎた筋肉に踊らされ、自分の足で走って現場に直行する領民達。慌ててそれを追い掛ける兵士達。



「……あの調子なら、すぐに完成しそうだねぇ」


「ですね」



 後に残された僕達は、走り去るみんなの後ろ姿を見送りながら笑い合った。






 強化魔法と領民達の献身的な作業のおかげで、その日の夕方には堀がほぼ完成した。


 作業中、魔獣が何度か壁を乗り越えてきたが、護衛の兵士さん達によってその都度撃破された。壁の側にいるから魔獣が近付いてくる音に気付き、すぐに連絡・避難が可能となった。だから、作業担当の領民に怪我人が出る事はなかった。


 国境の壁からサウロ王国側に二メートル程の位置に、全長五十キロ、幅五メートル、深さ五十センチ程の溝が掘られている。幅を広く取ったのは、容易に飛び越えられないようにする為だ。


 計画段階では二、三メートルだったんだけど、作業に当たった人達が口を揃えて反対したらしい。彼らは魔獣大発生の折りに、魔獣の恐ろしさや身体能力の高さを間近で見ている。生半可な事では防げないと考え、進んで堀の幅を広げたんだとか。


 堀の縁には、崩れないように薄い板が打ち込まれていた。これは仮設の門や杭を作る職人さん達が余った木材で用意してくれたものだ。流石に堀全体に行き渡る量は無かったけど、拠点付近の堀は綺麗に整備されている。


 突貫工事の割に完成度が高い。


 その代わり、作業を終えた領民達は全てを出し尽くした感じで現場で行き倒れていた。身体強化の反動もあり、物凄い筋肉痛に悶え苦しんでいる。それを駐屯兵団が馬車で回収して、ノルトンまで送り届けた。


 勿論、帰る前にシェーラ王女から労いの言葉を掛けて。


 一方、門と杭を作る職人さん達も頑張っている。壁を壊した後に設置する為、こちらはまだ帰れない。


 丸太を縄で縛り、銅板を釘で固定して補強。蝶番部分はノルトンの鍛治工房で特注品を作っている。設置までには間に合うよう手配済みだという。


 明日の朝、アーニャさんが壁を壊したら、すぐに門を取り付けられるよう準備を進めていた。



「済まん長官。小生が他の魔法を使えたら良かったのだが」


「構わないよ。魔法にゃ向き不向きがあるからねぇ。その代わり、コイツに魔力を貯めといてくれりゃあいい」


「む、それくらいなら」



 学者貴族さんとアリストスさんは、自身の身体強化と得意な属性の魔法しか使えない。その為、領民達への身体強化はアーニャさんの担当となっていた。まだ壁を壊したり水を出す大仕事が残っている。


 渡されたキューブを握り締め、魔力を籠める二人。魔力があるだけでも、こうして役に立てるのだから羨ましい。


 ちなみに、もう一つのキューブはシェーラ王女が所持し、常に魔力を籠めている。


 シェーラ王女も、兵士さん達や領民のみんなの士気を上げたり、軍議でも色々発言したりして活躍している。それに加えて、魔力の提供まで。立派に王族の務めを果たしている。


 僕は役に立つどころか、拠点の無駄飯食い状態だ。まあ、これは今に始まった事ではないけれど。何にも出来る事がないから、気持ち的に肩身が狭い。


 でも、ここの拠点の兵士さん達は誰も僕を邪険に扱わない。それどころか、何故か偉い人に対するような、畏怖の視線を向けられている気がする。



「ああ、ヤモリ君が竜を撃退した話が拠点内で広まっていてね。恐らくその影響ではないかな」


「エッ……なんで???」


「アールカイト侯爵が話したヤモリ君の武勇伝、駐屯兵団(ウチ)の小隊長達が第四師団の兵士達にも教えていてね」



 すぐ止めてもらった。


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