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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第8章 ひきこもり、真実を知る

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110話・魔獣対策 1

 シェーラ王女の発案で、国境の壁を幅十数メートルほど崩し、現在分散している魔獣の侵入路を一箇所に集中させる事となった。


 壁の破壊担当はアーニャさんだ。エニアさんのように魔法で身体強化して叩き壊すのか、それとも別の方法か。本人がやれると言うのなら可能なのだろう。


 しかし、侵入路があるからと言って全ての魔獣がそこを通るとは限らない。他の場所から壁を乗り越えて来た場合の備えも当然必要だ。



「壁際に配置する兵士を減らして魔獣を見逃すような事があれば周辺地域の危険が増える。何か時間を稼ぐような手段でもあればいいんだが」


「じゃあ、手薄になる場所には予め罠でも仕掛けますか。杭の尖った方を上に向けて置いておくとか」


「ほう、それなら簡単に用意出来そうじゃな」



 駐屯兵団の小隊長がアイデアを出している。以前の魔獣大量発生の時も、村や街を守る為に様々な方法を試してきた実績がある。



「では、早速資材を調達してきます。ここからなら、キサン村周辺の森が近いので、そこから木を切り出して参ります」


「うむ、任せた」



 辺境伯のおじさんが頷き、団長さんが小隊長達に細かく指示を出す。罠以外にも、壊した壁の跡地に開閉式の門を設置する事になり、それらの手配は駐屯兵団の仕事となった。


 しかし、これから罠を用意したとしても国境全てをカバーする事は出来ない。もっと広範囲に渡って魔獣を寄せ付けない方法はないものか。


 ふと視線を感じて顔を上げると、向かいに座っている学者貴族さんがこちらを睨み付けていた。さっきも怒ってたし、僕がまた危ない事をしないか疑っているな。


 そういえば、学者貴族さんやアリストスさんは成り行きで残る事になったみたい。アーニャさんやアークエルド卿から引き留められているようだ。この二人が居てくれたら確かに心強い。


 特に学者貴族さんは、以前司法部で見た時より何倍も強い雷魔法を使っていた。屋外では気兼ね無く威力の強い魔法が使えるからだろう。



「あっ」



 そうだ。雷が自在に操れるのなら魔獣避けに使えるかもしれない。


 駐屯兵団の再編成について打ち合わせ中の団長さんの隣から離れ、学者貴族さんとアーニャさんの側に移動する。まずは本人に了承を得てからでないと、軍議(ここ)で大っぴらにする訳にはいかない。



「あの、すいません、ちょっとお話が」


「ん? なんだいヤモリ」



 周りに聞こえないよう小声で話し掛けると、二人は顔を寄せて聞く姿勢を示してくれた。



「アーニャさん、魔法で水って出せますか? 出来れば大量に」


「出せるけど、何に使うんだい」


「ちょっと考えてる事があって。後で試したいので、時間貰ってもいいですか」


「ああ、構わないよ」



 アーニャさんは快諾してくれた。さて、次は学者貴族さんだ。



「学者貴族さんも、後でちょっといいかな」


「……また良からぬ事を考えているんじゃないだろうな?」


「大丈夫、今度は危なくないやつだから」


「なら良い」



 どんだけ疑われてるんだ僕は。


 とにかく、二人からは了承を得られた。後は、僕の考えが実現可能か試すだけだ。






 軍議を抜け出し、アーニャさんと学者貴族さんと一緒に拠点の裏手にやってきた。僕の護衛として間者さん、そして何故かアリストスさんも付いてきている。



「で、アタシは何処に水を出しゃいいんだい?」


「えーと、じゃあ、とりあえずコレに」



 近くにあった木桶を差し出すと、アーニャさんは怪訝な顔をしながらも片手を翳した。一瞬で木桶に水が満たされる。


 おお。本当に魔法で水が出せるんだな。以前マイラの魔力操作の練習の時に見てなかったら思いつきもしなかった。



「これって、一度出したら消えないですか?」


「消えやしないよ。飲んだり、煮炊きや洗濯にも使えるからねぇ」



 それを聞いて安心した。



「次は、学者貴族さん。この水に弱めの雷を」


「うむ」



 学者貴族さんは人差し指に静電気のような微弱な雷を発生させ、それを木桶の水目掛けて落とした。パチパチっと水面に電気が走り、そしてすぐに消えた。


 うん、僕の予想通りだ。



「……これが何だというのだ?」


「ちょっとした実験だよ。水は電気を通すんだけど、魔法で出した水がどの程度のものか分からなかったからさ」



 不純物が混ざっていない、いわゆる『純水』は電気を通さないとされている。魔法の水が、近くの井戸や地下水から転移して運ばれているのか、それとも大気中の原子などから作り出されるのかは分からない。もし生み出されたのが純水だとしたら、僕の考えは実行出来ないところだった。


 いや、木桶に出された時点で不純物が混ざっただけかもしれないけど。



「アーニャさんの水と学者貴族さんの雷で、国境の壁に魔獣が近寄れないようにしたいんだ」


「……ええと、つまりどういう事だ?」


「大きな水たまりを作って、そこに雷を落とすんだよ。そうしたら、水たまりに入った魔獣は感電……痺れて動けなくなるでしょ?」


「ああ、そういう事か」



 全員に考えが伝わったようだ。



「だが、魔獣が来る度に雷を落とす訳にはいかんぞ。昼夜を問わず国境に張り付くには無理がある」


「兄上に負担が掛かる策は許可出来んな」



 それはもっともな意見だ。


 雷が落ちた水たまりは時間が経てば電気が抜けてしまう。かといって毎回魔法を使わせれば、今度は学者貴族さんの魔力切れの恐れもある。



「だから、コレを使おうと思って」



 僕が上着のポケットから取り出したのは魔力貯蔵魔導具(キューブ)だ。一度魔法を発動してもらえば、魔力が供給され続ける限り効果は消える事がない。


 つまり、負担は最初だけ。



「なるほど、やりたい事は分かった。……だが、こっちがちょっと心配だねぇ」



 問題は、帝国にいる時にかなり魔力を使っちゃったからキューブにあんまり魔力が残っていない事か。


 キューブを手に取り、内蔵魔力の残量を確認するアーニャさん。その表情はあまり明るくない。恐らく、ほぼゼロに近いのだろう。



「アタシは壁を壊さなきゃならないし、ここで魔力を大量に使う訳にはいかないからねぇ」



 そうだった。


 アーニャさんには他にも重要な仕事がある。水を出すにも魔力を使うだろうし、これ以上負担を掛ける訳にはいかない。



「では、アリストスの魔力を使うか」



 アリストスさんの肩に手を置く学者貴族さん。急に話を振られたアリストスさんは、驚いて顔を上げた。



「小生は魔力が無いと戦えんが、アリストスは剣だけでも十分戦える。今回一緒に帝国に行ってみてよく分かった」


「あ、兄上……!」


「アリストス、構わんな?」


「もっ勿論ですッ! 私の魔力を全て使っても構いません!!」



 大好きな兄上に実力を認められ、頼られた事が相当嬉しいのか、アリストスさんは笑顔で快諾してくれた。


 学者貴族さん、弟の扱いが上手くなってる。


 しかし、アリストスさんの炎の斬撃は広範囲の敵にダメージを与える強力な攻撃手段だ。万が一の事を考えると、アリストスさんの魔力を全部キューブに籠めるのは避けたい。



「でしたら、私の魔力も使ってください」



 突然、背後から女の子の声が聞こえた。


 振り返ると、そこには隠密さんを左右に従えたシェーラ王女が立っていた。どうやら僕達の行動は密かに監視されていたらしい。



「私は拠点の一番安全な場所で守られております。魔力が無くても、余程の事がなければ危険はありませんので」


「え、でも」


「数日以内にはお父様も来ますし。……それに、今ここの代表は私ですから、少しは役に立ちたいのです」



 王都から王様が到着するまでとはいえ、シェーラ王女はサウロ王国軍のトップだ。名前を貸す以外にも何かしたいと思っていたのだろう。


 アーニャさんの方を見たら、小さく頷き返された。シェーラ王女の魔力を使う事に異存はないようだ。



「では、シェーラ王女の魔力もお借りします。でも、全て使わないで下さい。アリストスさんも」


「はいっ」


「了解した!」



 これで魔獣対策の動力源が確保出来た。あとは、みんなと相談して、一番効果的な場所や方法を考えて実行するだけだ。

地味〜に動く主人公。

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