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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第8章 ひきこもり、真実を知る

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109話・再会と軍議

 ひとしきり怒られた後ようやく解放され、兵士さんに休憩用の小さな天幕へと案内された。


 そこはシェーラ王女や師団長達がいる大型天幕からあまり離れていない位置に建てられた小さな天幕だった。いわば、このエリアは拠点の偉い人専用みたいなものだ。僕は偉くはないんだけどね。


 布で仕切られていて、一般の兵士があまり近付かない場所なので、人見知りの僕には有り難い。


 直径二メートル、高さ一メートル位の小さな天幕だけど、久しぶりに安全な場所で一人になれた。狭いけど、解放感がすごい。


 取り敢えず、敷布の上で寝転がって寛ぐ事にする。


 緊張から解放されて、身体中が重くなるのを感じた。後ろに乗せて貰っていただけとはいえ、慣れない馬に何日も乗った肉体的疲労と、監禁されたり魔獣やドラゴンに追い回されたりした精神的疲労が急にのし掛かってきたからだ。



「あ〜……帰ってきたんだよな」



 全く実感がない。


 まだ戦場に近い場所に居るからだろう。ここは最前線にある第四師団の仮設拠点で、今は戦争中だ。完全に安全とは言い切れない。


 それでも、見える範囲に魔獣は居ないし、強い人達が守ってくれてる。帝国領に居た時とは雲泥の差だ。


 これからどうなるんだろう。


 僕には戦う力は無いし、拠点(ここ)に居ても役に立たないから、近いうちにノルトンに移る事になるだろう。


 でも、シェーラ王女が残るのに僕だけ安全な場所に行くのも気がひける。王様が到着して、シェーラ王女が名代の役目を終えたら、一緒にラトスに会いに行くのもいいかもしれない。


 そんな事を考えながら眠りについた。






 けたたましい馬の鳴き声が響き、周辺の兵士が騒つくのを感じた。


 飛び起きて天幕の入り口の布を取り払うと、目の前には間者さんの姿があった。もしかして、僕が寝てる間もずっと見張りをしていてくれたのか。


 まだ日は暮れていない。



「まだ寝ててだいじょーぶっすよ」


「え、でも今の騒ぎ……」


「ああ、辺境伯(あるじ)が戻っただけっすから」


「え、それだけでこんな騒ぎになるの?」



 今も、周囲からは慌ただしく兵士が走り回っている音が聞こえる。敵襲かと思ったくらいだ。



「師団の兵士さん達、辺境伯(あるじ)の熱狂的な信者というかなんつーか。とにかく、みんな出迎えたいらしいんすよねー」



 なんだそれ。


 全員辺境伯のおじさんのファンなの?


 僕達が帝国領に入る前はそんな事無かった気がするんだけど。先代軍務長官であり、エニアさんの父親という立場だから敬意は払われていたと思うけど。



「魔獣が定期的に襲ってくる時に、先陣切って倒しまくってたらしいんで。あと、やられそうになった兵士さんを間一髪のところで助けたりとか? それで人気が出たとゆーか」



 めちゃくちゃ納得した。


 辺境伯のおじさんの強さを目の当たりにし、更に助けられちゃったりしたら、そりゃあファンになるよね。第四師団の人達は、過去の武勇伝は知っていても、辺境伯のおじさんが戦う姿を実際に見たのは初めてだろうし。


 僕も戦うところは見た事ないな。



「んで、これから軍議するって」


「そっか。僕が行っても仕方ないし、挨拶は後にしておこうかな」


「そっすね、それが良いと──」



 言い掛けて、間者さんの動きが止まった。


 どうしたのかと思い、天幕から這い出た所を背後から誰かに掴まれた。まるで猫のように後ろ襟を掴んで持ち上げられた。驚いて振り向くと、そこには辺境伯のおじさんが立っていた。


 ちょうど布の影になっていて気付かなかった。間者さんの反応からして、恐らく気配を消して死角から近付いてきたのだろう。


 兵士さん達に囲まれてキャーキャー言われてたんじゃないのか。黙らせたのか撒いたのか知らないけど。



「ほぉ、ワシへの挨拶を後回しにして昼寝か?」


「そ、そんなことは……」


「ヤモリよ、お前さんにも参加して貰うぞ」


「嫌ですよ、僕は邪魔になるだけだし」


「ラキオスも来とるぞ」


「あ。行きます」



 団長さんを持ち出された瞬間に快諾したら、めちゃくちゃ渋い顔された。いや、団長さんには会いたいし。


 三人連れ立って大型天幕に入ると、既に他の参加者も集まっていた。さっきのメンバーに加え、新たに辺境伯のおじさんと団長さん、第四師団の隊長さん数名、あと駐屯兵団の小隊長数名。かなりの人数だ。


 そのうち、駐屯兵団の小隊長の一人に見覚えがあった。ノルトンからナディールまで護衛してくれた、アデスさんだ。頭を下げると、あちらも覚えていてくれたようで、笑顔で会釈を返してきた。



「ヤモリ君、よく戻った。怪我はないか?」


「はい、みんなが守ってくれたので」



 団長さんが手招きしてくれたので、隣に座らせてもらった。駐屯兵団はクワドラッド州内の巡回や集落の警備が仕事だが、団長さん率いる部隊は国境付近で魔獣討伐に駆り出されている。見たところ大きな怪我はしていないが、革鎧の傷が幾つか増えていた。



「魔獣、たくさん襲ってくるんですよね」


「ああ、今でも数時間おきに群れが来る。もし第四師団が居なかったらと思うと恐ろしいな」



 言いながら、ブラゴノード卿の方に視線を投げて軽く会釈をする。向こうも小さく手を挙げて応えた。こんな感じで、これまで上手く協力し合って凌いできたようだ。



「それより、そちらのアールカイト侯爵から聞いたぞ。竜を一人で撃退したというのは本当なのか?」



 話が大きくなってる!


 アリストスさんの方を見れば、まさに僕の話を盛りまくって駐屯兵団の小隊長達に聞かせているところだった。なにやってんだあの人は。


 軍議に参加しているという事は、アリストスさんと学者貴族さんも今後ここで戦うのかな。アークエルド卿が帰してくれないのかも。なし崩しに王国軍入りさせられそう。



「……いえ、小細工で時間稼ぎしただけなので。アリストスさんの話は聞き流して下さい」


「君が危機を救った事実なのだろう? 危ないから、今後は周りに任せて安全な場所に居てくれると有り難いが」


「はい」



 了解すると、団長さんが安心したように笑った。やっぱり、周りに心配ばかり掛けてしまっている。結果的に全員無事にサウロ王国に帰って来られたし、もう僕が最前線に立つ事はないと思う。怖いし。



「全員集まったな。では、今後の方針を決める」



 辺境伯のおじさんの仕切りで軍議が始まった。


 参加者全員、円を描くように並んで座っている。天幕の入り口から一番離れた上座にシェーラ王女やアーニャさん、アリストスさん達がいた。


 真ん中に置かれた地図には、兵士の配置を示す石が幾つか置かれている。



「人質を奪還した以上、もう遠慮は要らん。今度はこちらから攻め込むつもりじゃが、異議はあるか」


「長引くと士気が持たんからな」


「同感だ。一気にケリをつけるべきだろう」



 辺境伯のおじさんの言葉に賛同する師団長達。これまで防戦一方だったらしいし、早く決着をつけてしまいたいのだろう。



「しかし、魔獣がなぁ……」



 一番手を焼いているのが魔獣の撃退だ。倒しても倒しても何処からともなく湧いてくるのでキリがない。既に国境の壁付近には死骸が山のように積まれているにも関わらず、新手がどんどん襲い掛かってくるのだ。


 壁を越えて攻め込んでも、帝国の軍勢と戦う前に何百という魔獣を相手にしなければならない。それどころか、主力が帝国領に入っている隙に魔獣がサウロ王国側に侵入してしまう可能性もある。



「竜の怪我がどの程度か分からんが、治ったらこちら側に飛んで襲撃に来るやもしれん。その前に帝国を落としたいんじゃがのう」



 確かに、空から襲撃されたら困る。あんなが襲ってきたら、馬は逃げるし普通の兵士さん達だって怖くて動けなくなってしまう。



「第四師団全てを帝国攻めに投入すると国境の守りが薄くなる。州内に散っている駐屯兵団を集め、防備を固めればどうだ」


「は。各集落に最低限の守りは置きたいので、半数程ならば動かせるかと」


「うーむ。あと千人程兵が欲しいところだが」



 帝国兵と戦う事と、魔獣を退治する事、領民の生活を守る事。どれも重要で譲れない。



「せめて、魔獣がこちら側に来れなくなれば良いのだがなあ」



 ブラゴノード卿が溜め息を吐きながらボヤく。


 それが出来れば苦労はしない。なんせ、魔獣は高さ五メートルの壁をよじ登って越えてくるのだ。一箇所に殺到し、目の前にいる他の魔獣を踏み越えて。数が多いから出来る荒技だ。


 壁を越えないように、仕掛けや罠を作るべきか。


 レベルは違うけど、害獣対策に似てる気がする。元の世界では、猪や鹿が畑に入らないように有刺鉄線で囲むとニュースで紹介されていたのを見た。魔獣相手に通用するかは分からないけど、何もしないよりマシかもしれない。


 有刺鉄線って、こっちの世界にあるのか? いや、もしあったとしても、国境の壁全てに設置するのは難しい。そんな物を今から準備していたら何日掛かるか。


 なんか、もっと考えれば簡単で効果の高い策がある気がするんだよな。



「わざと壁を一部壊して、魔獣がそこから侵入するよう仕向けるのは如何でしょうか。今は壁の何処を越えてくるか分かりませんから、広範囲で警戒なさっているのでしょう?」


「おお。確かにそうですな」



 シェーラ王女の案に、師団長達が頷いた。


 本来ならば、壁の上に兵を置いて見張りをさせるべきなのだが、魔獣が壁を登ってきて危険な為、それは不可能となっている。同じ理由で、国境の壁近くに物見櫓を設置する事も出来ない。つまり、壁を乗り越えられて初めて魔獣が何処にいるのか分かるのだ。これでは遅い。



「ふむ、そうじゃな。魔獣の侵入箇所が絞れれば守りの兵も減らせるし、その分他に回せるのう」



 ラトスの祖父である辺境伯のおじさんから同意を得られて、シェーラ王女は頬を染めて照れている。



「どの道、兵士を大量に帝国側に送り出すには壁を壊す必要がある。ついでに魔獣対策が出来るなら丁度良い」


「その方向で動くとして、壁をどう壊すか」


「エニアはまだノルトンだからのぉ」



 人質生活で衰弱したラトスに付き添っている為、エニアさんはノルトンにいる。素手で鉄扉をブチ壊す程の怪力の持ち主が居ない今、どうやって壁を壊したらいいのか。



「グナトゥス。お前やれるだろ」


「年寄りに無理をさせる気か?」



 魔法を使える人が全員身体強化を使える訳ではない。勿論、出来ない事はないが、基礎体力がないと後でくる反動に負けて動けなくなるらしい。辺境伯のおじさんはこの戦争の要だ。壁壊しで使い潰していい人材ではない。



「……その役目、アタシがやるよ」



 名乗りを上げたのは、それまで沈黙を守っていたアーニャさんだった。


 サウロ王国一の魔法使いであるアーニャさんが、厚さ約一メートル、高さ五メートルの石壁を破壊出来るのか。


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