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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第7章 ひきこもり、人質になる

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101話・止める権利

 長引く小競り合いに終止符を打つ為、学者貴族さんは一気にカタをつける事にした。ティフォーの攻撃は全てアリストスさんに対応を任せ、魔法の発動に集中する。


 頭上に掲げた両手から迸る稲光が集まり、雷の塊が現れた。バチバチと派手な音を立てながら、雷の塊はどんどん大きくなっていく。


 広範囲に強力な雷を落とす気だ!



「死にたくなければ退け!」



 これ、僕達も危なくない?


 乱戦状態だし、敵は一箇所に固まっている訳ではない。このまま魔法をぶつけられたら、味方の僕達ごと黒焦げになるのでは?


 そんな心配を他所に、学者貴族さんの頭上にある雷の塊は大きさを増していく。辺り一面を稲光が照らす。


 ティフォー達は魔法の発動を阻止しようと試みるが、炎の剣を構えたアリストスさんが邪魔を許さない。学者貴族さんに近付く者全てを斬り伏せる勢いで守っている。



「え、あれヤバくない? 逃げる?」


「バカ、アイツら逃したらオレ様達イナトリ様にブッ殺されんだろが」


「怖じ気づくんじゃねーよ、行くぞ!」



 やや逃げ腰のティフォーを叱りつけつつ、ナヴァドとランガが飛び掛かる。だが、アリストスさんによって阻まれた。それを何度か繰り返しているうちに、雷の塊が最大の大きさになった。


 直径二メートル超えの雷の塊。


 流石にこれを喰らえばただでは済まない。


 そう悟ったティフォー達は、それぞれ距離を取った。そして、僕達や隠密さん達の側に近付く。


 そうする事で的を分散し、あわよくば魔法をやめさせようと考えているのだ。最悪、僕達を巻き込んで相打ちを狙っているのかもしれない。


 しかし、そんな誰でも思い付くような方法で避けられるものではない。



「忠告はしたぞ」



 稲光が輝きを増し、視界が真っ白になった。


 直後、ドン、と地鳴りを伴う轟音が響く。


 雷の塊が落ちたのだ。しかも、すぐ側に。


 音が止んでから数秒後、恐る恐る目を開けてみた。僕や間者さん、隠密さん達や馬は無事だ。


 辺りを見回すと、地面に倒れるティフォー達の姿があった。雷の直撃を受け、大火傷(おおやけど)を負っているにも関わらず息がある。しかし、まだ身体が痺れているようで、身動きは取れないようだった。


 無言で炎の剣を振り上げ、倒れている三人に歩み寄るアリストスさん。


 まさか、とどめを刺そうとしてる?


 僕は思わずアリストスさんの前に立ち塞がった。身体が勝手に動いてしまった。アリストスさんの邪魔をして、どうするというのか。



「ヤモリ殿、退いてください」


「で、でも……」


「この者達を生かしておく理由はありません」


「……ッ」



 冷たく言い放つアリストスさん。


 確かに、今ここで彼等を放置して去れば、回復次第また追ってくるだろう。


 敵とはいえ、目の前で誰かが死ぬのは嫌だ。でも、それは守られているだけの立場の僕が言える事ではない。


 現に僕を助けに来た事で、学者貴族さんは大切な愛馬を失った。仇を討つのを止める権利は無い。


 黙って俯いた僕の横を通り抜け、アリストスさんは剣を振るった。小さな呻き声を上げるナヴァドとランガ。怖くて直視出来ないけど、確実にとどめを刺す為に心臓をひと突きにしたのだろう。


 最後にティフォーに向かって剣を振り下ろそうとした瞬間、それまで離れた場所でぐったりしていた鳥型の魔獣が急に巨体を起こした。動きに気を取られた隙に、鳥型の魔獣はティフォーを嘴で咥え、空へと飛び上がった。



「逃すかッ!」



 すぐにアリストスさんが剣を振るい、炎の斬撃を飛ばした。炎は腹に命中したが、鳥型の魔獣は構わず高度を上げて飛び去ってしまった。すぐ夜の闇に溶け込み、見えなくなる。


 残された僕達は、夜空を見上げて立ち尽くした。



「まあ、あれだけの火傷を負ったのだ。放っておいても問題あるまい。──よくやった、アリストス」



 そう言って、学者貴族さんがアリストスさんの肩を軽く叩く。さっきまで殺気立っていたアリストスさんは、パッと表情を明るくした。



「他に追っ手が居らんとも限らん。行くぞ」


「はっ」



 馬が二頭に減ってしまったので、僕は学者貴族さんかアリストスさんと相乗りをする事になった。


 今はアリストスさんと一緒に乗りたくない。


 なので、また学者貴族さんと相乗りさせてもらう事にした。再びアリストスさんから嫉妬に燃える目で睨まれる。


 隠密さん達は前、間者さんは後ろに付いて走る。


 馬に揺られながら、僕はさっきの戦いの事を思い出した。あんなに大きな雷の塊が落ちたのに、僕達だけ無傷だったのは何故だろう。


 ティフォー達は一箇所に固まってはいなかった。それなのに、まるで僕達を避けるかのようにして、雷は敵だけに落ちたのだ。



「あの、さっきの魔法……」


「ああ、あれか。流石にあの大きさの雷を出すと疲れるな。魔力を使い過ぎた」


「どうして僕達には当たらなかったの?」


「簡単な事だ。先に彼奴らの身体に一度触れる事で雷を誘導したのだ」



 なるほど。だからナヴァドやティフォーの攻撃をわざと受けたのか。多分見ていない所でランガからも攻撃を受けていたのだろう。



「そういえば、お腹殴られたりしてたよね。大丈夫? 痛くないの?」


「魔法で身体強化しとるからな、あの程度なら問題ない。……なんだ、心配させたか」


「そりゃあ心配くらいするよ!」



 僕の言葉に、学者貴族さんは笑った。


 笑ってはいるけど、いつもより元気がない。その理由は、やはりさっきの事だろう。



「……ごめんなさい。僕のせいで馬が」


「気にするな。お前を取り戻しに帝国に行く事を決めたのは小生だ。ヤモリのせいではないし、シュバルツはよく働いてくれた。後悔はしておらん」



 悲しくない筈ないのに、僕が責任を感じないように言葉を選んでくれている。優しい。


 馬を走らせ、北へと向かう。


 平原での戦いから数時間後、空の端が明るくなってきた。夜明けだ。朝日が辺りを照らし、遠くまで見通せるようになった。


 国境まではまだかなり距離がある。不眠不休で馬を走らせれば、一日半くらいあれば着くだろうか。それまで邪魔が入らなければの話だけど。


 

「前方、魔獣多数」



 前を走って警戒していた隠密さんから報告がきた。わざわざ報告するという事は、多少の進路変更では回避が出来ないという意味だ。やはり、すんなり国境まで行ける訳がない。


 魔獣との遭遇に備え、馬のスピードを緩める。


 しばらく進むと、腰の高さまで草が茂った草原に出た。草葉の間にちらちらと獣の頭が見える。それも、かなりの数だ。



「狼が約百匹、黒狼と灰狼半々」


「多いな」



 おおよその数を聞いて、学者貴族さんが唸る。


 魔力がまだ回復していないようだ。さっきの雷魔法以外にも、何度も魔法を使っていたのだから無理もない。



「兄上は下がって下さい。ここは私が」



 アリストスさんが馬から降りた。


 片足を引き、身体を低くして腰の剣に手を掛けて抜刀の構えを取った。そのまま魔獣が近付いてくるのをじっと待つ。


 草を掻き分け、魔獣達は徐々に距離を詰めてくる。アリストスさんを取り囲み、一斉に襲う気だ。


 一番近くの魔獣がアリストスさんの半径五メートル以内に入った。これ以上近付くのを許せば、一回の跳躍で牙や爪が届いてしまう。


 前列の魔獣が頭を下げ、飛び掛かる動きを見せた。これ以上引き付けるのは無理だと判断し、それまでじっとしていたアリストスさんが動いた。剣を抜いた瞬間、刀身に炎が宿る。そして、抜いた勢いのまま地面と水平に振り抜いた。


 炎の斬撃が地面スレスレに飛び、前方の草原を一瞬で薙ぎ払った。前触れも無く炎を喰らった狼の魔獣は、六割が動けなくなり、残りの四割は逃げ出した。


 たった一撃で百匹の魔獣を撃退した。


 アリストスさん、強い。


 ただのブラコンではなかった。王宮警備の責任者という肩書きは伊達じゃない。


 あれ、王宮警備の仕事は?


 そうだ、アリストスさんこそユスタフ帝国(こんなところ)に来ちゃダメな人じゃないか。


 後で学者貴族さんに聞いたら、元王宮警備隊の面々を王国軍から呼び戻し、警備を引き継いでから来たとか。


 マリエラさんからも、帝国行きを後押しされたらしい。


 え、アールカイト侯爵家現当主とその兄が二人とも危険な場所に行くのを許したの?


 ダメじゃない?


 僕を助ける為だからって、この二人を帝国まで来させるなんて。



 無事に帰れたら、マリエラさんにお詫びしなくては。今回の件でかなり沢山の人に迷惑掛けてるよね。お詫び行脚した方がいいのかもしれない。

2019年最後の更新です

2020年もよろしくお願い申し上げます

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― 新着の感想 ―
[良い点] この二人、こんなに強かったんですね… というか、魔法のアドバンテージ凄い!
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