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ひきこもり異世界転移〜僕以外が無双する物語〜  作者: みやこのじょう
第7章 ひきこもり、人質になる

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92話・異質な三人

「オラ、ついてこいよ。ガキに会わせてやる」



 そう言いながら僕達を先導する茶髪の男。


 服装も普通だし、年齢的には三十路手前くらいの、どこにでもいそうな人だ。ただ、纏う雰囲気が異質に感じる。見た目通りではないのは明らかだ。


 口調はやや荒いが声の大きさは抑えている。一応、周りから怪しまれないように気を使っているのだろう。


 男は手前の建物の門を曲がり、狭い路地を先に歩いていく。土地勘のない僕達は彼の後を追い掛けるしかない。


 そう思っていたのだが──



「お待ち下さい。そちらではありませんよね」



 路地に曲がる手前で立ち止まるシェーラ王女。その言葉を聞いて僕達も足を止めた。



「……バレてんならしゃーねーな」



 小さく舌打ちをした後、男は笑顔で振り返った。相変わらず眼は笑っていない。


 シェーラ王女は帝都に入ってからずっと感知魔法を使っていたのだ。既にラトスのいる大体の方角は分かっている。男が真逆の方向へ案内しようとしたから声を掛けたのだ。



「ワリ、軽いジョーダン! ちゃんとガキんとこに連れてくってぇ」


「回り道はしないでもらおうか」


「モチ、そのつもりだしぃ?」



 馴れ馴れしくオルニスさんの肩を抱き、へらへらとシェーラ王女に笑い掛ける男。この人はどうも信用出来ない。いや、そもそも帝都に信用出来る人間なんかいないんだけど。


 というか、さっきからラトスの事をガキガキ呼び過ぎ。表情は変わってないけど、オルニスさんもシェーラ王女もめっちゃ怒ってる。後が怖い。


 一旦大通りに戻り、さっきとは違う路地へと入った。今度はシェーラ王女は黙っている。つまり、ラトスが居る方角という事だ。



「……ふぅ、殿下の感知魔法が無かったら騙されるところだったねェ」


「助かりましたね」



 先導する男の数メートル後ろを歩きながら、アーニャさんが小声で話し掛けてきた。僕の手の届く範囲は盗聴阻害の魔導具の効果で周囲には何を喋っているかは聞こえない。平然と内緒話が出来るという訳だ。


 あの男はただの道案内ではない。


 目の前の少女がサウロ王国の王女だと分かれば追加で攫って人質にする位はやりかねない。だから、帝都内ではシェーラ王女の事を敬称なしで呼ぶ事に決めていた。勿論、盗聴阻害の範囲内では普段通りに呼ぶけれど。


 細い路地を何度も曲がると街並みに変化が現れた。大通り沿いにあったような大きな建物はなくなり、煉瓦造りの小さな家が建ち並ぶエリアに入った。人通りも少なくなっている。


 歩きながら、僕はちらりと振り返った。後ろに見えるのは帝都の何処にいても目に入る黒い帝城。男が案内した先は、帝城とはかなり離れた場所にある古びた教会のような建物だった。



「オウ、ここだ、ここ。入んな」



 男が顎をしゃくって指示する。


 ちらりと隣に目線を向けると、シェーラ王女は小さく頷いた。この敷地内にラトスが居るのは間違いないようだ。


 壊れた門をくぐり、手入れのされていない庭を抜け、開けっ放しの入り口から建物内へと足を進める。


 やはり教会なのだろうか。一番奥に祭壇のような場所があり、手前の広間には長椅子がたくさん並べられていた。窓は外から板がバツの字に打ち付けられている。板の隙間から漏れる光で、室内は最低限の明るさが保たれていた。


 正面の壁には木彫りの老人像が飾られていた。あの像には見覚えがある。宗教書の挿し絵にあった、バエル教のものだ。もっとも今は誰にも管理されていないようで、教会内部は蜘蛛の巣と埃だらけになっていた。


 中には若い男女がいた。それぞれ別の長椅子に腰掛けている。祈りを捧げにきた信者……ではなさそうだ。


 僕達が中に足を踏み入れた瞬間、男女の視線がこちらに向けられた。



「あら。可愛いお嬢さんがいるじゃない」



 栗色の長い髪を揺らしながら二十代前半位の女の人がにっこりと笑った。こちらの世界では珍しい、胸と腰回りを覆うだけの露出の多い服を着ている。



「おいおいおい『ナヴァド』。テメー真っ直ぐこっちに連れてくる予定じゃーなかっただろーが。あぁ? 急に来たから驚いたじゃねーか馬鹿野郎」



 案内役の男『ナヴァド』に向かって文句を言う三十路前後の男。くすんだ金の短髪と大柄で筋肉質な身体が印象的な強そうな人だ。



「ハン! オレ様のせいじゃねえよぉ。そこのオジョーサンの勘が鋭かったせいだしぃ」



 男女の方に歩み寄りながら、ヘラヘラした笑いを辞めないナヴァド。



「オウ、『ティフォー』『ランガ』。コイツらがサウロ王国からの客だ」


「ふぅん。アタシの言い付けをちゃあんと守ってくれたみたい。良い子ね」



 兵士も騎士も連れていない僕達を見て、露出の多い女『ティフォー』は目を細めて微笑んだ。


 今の発言から察するに、この人が辺境伯家の馬車を足止めし、マイラを騙してラトスを攫った実行犯か。



「おいおいおい、確かに見た目は弱っちぃけどよ、怯えた匂いはしてねーぞ。どーいうこったこりゃあ、あぁ?」



 同じく、僕達を頭のてっぺんから爪先までジロジロ見ながら周りの長椅子を蹴る大柄な男『ランガ』。見た目と言動からして、野生的で武闘派な人物だ。


「ハァ? 知らねぇよ。そんなん知らなくても問題ねぇし? てか人質(ガキ)は? ちゃんと見てろよ」


「はいはい。でも、その前に」



 ナヴァドの問いに答えながら、ティフォーはゆるりと長椅子から立ち上がった。顎に手を当て、建物の出入り口や窓に目を向ける。



「さっきから、教会(ここ)の周りをウロウロしてる奴らがいるのよね。気に触るわ」


「確かにな。……八人、いや九人か? コイツらが怖がってねーのは、護衛が付いてっからかよ。なるほどなるほど。そんならオレらにビビってねーのも納得だ」



 隠密さん達の事だ。


 建物の中には入っていないけど、彼らが妙な動きをしたら即飛び出せるように待機している。気配を消した隠密さんの存在を、数まで正確に把握するなんて。


 ティフォーとランガ、恐らくナヴァドも、獣じみた察知能力を持っているようだ。



「済まないね、気になるなら遠ざけよう」


「お? ずいぶんヨユーだな。下手なマネしなきゃ別に構わねーよ」



 交渉を放棄して人質奪還を狙えばタダではおかない、という意味か。


 ナヴァドと接触した時からオルニスさんの表情から笑みが消えている。静かな怒りと焦り。それが、ここに来て焦りの方が勝ってきている。


 この三人は、ヤバい。


 こんな人達に一週間以上も囲まれていて、ラトスは無事なのか。早く彼等から解放してあげなくちゃ。


 僕は一歩前に進み出た。



「あっ、あの、ぼぼぼ僕が、いっ異世界人、なんですけど。ぼっ僕が代わりに人質になれば、ラトスは返してもらえるんです、よね?」



 怖くて歯の根が合わない。震える声で、でも相手に聞こえるように話を切り出した。


 三人の視線が僕に集まる。



「……ハァ? コレが異世界人だぁ?」


「その辺のガキじゃねーか」



 明らかに疑っているナヴァドとランガ。


 そういえば、僕が異世界人だと証明するものが何もないぞ。信じてもらえなきゃ意味がない。どうしよう。



「その子は異世界人よ。見た目はパッとしないけど、黒髪黒目でしょ? あっちの王宮にいるの見た事あるし」



 ティフォーがそう証言してくれて、ようやく二人は信じてくれた。


 しかし、王宮で見た事あるだって?


 凄腕の隠密や騎士、兵士に護られた王宮に、この人は近付けたというのか。まさか、ずっと前からサウロ王国に侵入して機会を窺っていた!?



「じゃあ、アンタと坊やの交換といきましょう」



 いつのまにか目の前に立っていたティフォーが、僕の頬を手の甲で撫でる。身体を強張らせる僕を見て、彼女の赤黒い唇が弧を描いた。


 怖い。怖い。怖い。


 でも、逃げたくないし、逃げられない。


 この異質な三人から、一刻も早くラトスを取り返して安全な場所で保護するまでは。

敵キャラ登場!٩( 'ω' )و


今後とも応援よろしくお願いしまーす!

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