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夏の終わり

 吹き抜ける風がどこか寂しくて、シルヴァはそっとカインの手を握った。カインは優しくほほ笑み、握り返してやる。


 高い空にゆっくり流れる白い雲、トマの夏は短い。そろそろ次の街へ旅立つために、シルヴァは最後の授業を受けたあと教師と生徒たちに別れを告げた。


「短い間でしたが、お世話になりました。次はみんなにいろんなことを教えられるように、たくさん勉強してくるね」


 突然のことに驚き、幼い同級生たちはひどく残念がった。


「ずっと、トマにいたらいいのに」


「また来てくれる?」


「私たちのこと、忘れないでね」


 シルヴァは必ず来年も戻ってくることを約束し、学舎をあとにした。


「大変なこともあったけど、楽しかったね」


 少し伸びた髪を耳にかけ、新しい外套のすそを揺らす。夏の間にアレシアが仕立ててくれた外套は細身で軽く、動きやすいようにと飾り気などはないが女性らしく見せた。


 いつか予言で見た、あの美しい乙女を思い出す。


「トマを発つ前に、寄りたいところがあるんだ」


 街のはずれの小道をしばらく進むと、見晴らしのいい草原が広がり、シルヴァははっと息を呑んだ。


 青々と茂る芝はきちんと手入れされ、よく磨かれた墓石が整然と並ぶ。王家に嫁いだエリシア・トマ以外の、一族が眠る場所。


「トマに来たのは避暑だけじゃない。おまえを……皆に紹介したかったからなんだ」


 ウェーザーの精霊たちとは違う、何かの気配がシルヴァの周りに漂う。歓迎されているだろうか。シルヴァは緊張した面持ちでじっと空を見上げた。


「えっと……シルヴァ・ミントです。あの、カイン様を幸せにするので、見守っていてください!」


 いったいどこに、誰に向かって言っているのだろう。自分でもよくわからなかったが、言わずにいられなかった。カインは楽しそうにくすくすと笑う。合わせて木々もそよそよと揺れた。


 カインも心の中で、最愛のひとを生涯守り抜くことを誓う。


 さて、次はどこへ行こうか。


「秋は各地で収穫祭がある。美味いものがたくさん食えるぞ」


「あは。楽しみ」


 大好きなひとがそばにいて、笑っていてくれるだけで毎日が楽しくて。食事はおいしくて、幸せなのだけれど。どちらからともなく、くちびるを重ねた。心が温かくなる。少しの不安や寂寥など、今は忘れて。


 振り返ればトマの街並み、その向こうには果てのない海、穏やかに過ぎていく日常。つい先ほどまであの中にいたのに。


「どうした?」


「や、カイン様って、ずっとこんな気持ちだったのかな……って」


「ん?」


 出会いの数だけ別れがあり、そのたびにこの言いようのない想いをただ一人で抱えてきたのか。せめて心の隙間のようなものを埋めることができれば。シルヴァはカインの腕にしかとしがみついた。


「なんだ?」


「あは、なんでもない」


 季節が一つ終わり、すぐに新しい季節がはじまる。きっと、また素晴らしい出来事が待ち受けているだろう。


「行こ」


 シルヴァは明るく笑い、カインの腕を引く。カインはやれやれと目を細め、愛しそうに見つめた。


 歩き出した二人の前に、ふとつむじ風が起こる。それは人影となり、カイン達にほほ笑みかけた。が、カインは気付かないふりをして通り過ぎる。


「え、ま、待ってください、何か言ってくださいよ」


 あわてて追いかけてきた影は、はるか王都にいるはずの国王フラン・ヨエル・ウェーザーだった。カインは舌打ちし、さも迷惑そうに振り返る。


「バラのジャム、ありがとうございます。アナベルがとても気に入りまして……」


「用がないなら消えろ」


「あ、そうそう、姉上に新しい剣を贈っておきました」


「……」


 苛立ち、睨みつけると、フランは笑みを消した。


「……助けてください」


「断る」


 シルヴァの肩を抱き寄せ、さっさとその場を離れようとするが、それより先にフランが指を鳴らす。まるで地に縫い付けられたように足が動かない。


「国王命令です。今すぐ王都に戻ってください」


「……何があった?」


 国王フラン・ヨエル・ウェーザーは一つため息をつき、重い口を開いた。


「内乱が起こりました」

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