うっかり怪我をしてしまったところ婚約者がお見舞いに来てくれたのですが、そこでまさかの……?
その日は快晴だった。
とても良い天気で心地よくてスキップしていたら、穴にはまってしまって、その際に足を怪我してしまった。
そんな私のお見舞いに一応は来てくれた婚約者アラストフだったが――。
「馬鹿だなお前」
「え」
「お前、まさかここまで馬鹿だとはな」
「ちょ……そ、それは酷くない……?」
「酷くはないだろ。ただ事実を言っているだけで。本当のことだろ」
彼は私の身など少しも案じていないようで。
「ま、ちょうどいい機会だわ。お前との婚約は本日をもって破棄とする」
さらりとそんなことを告げてきた。
「ええっ!?」
想定外の展開だった。まさかまさか、というやつである。お見舞いに来てくれたと思ったら婚約破棄してくる、なんて、そんな衝撃的な展開を予測できるわけがない。
普通は思うではないか。
お見舞いに来てくれたということは心配してくれているのだと。
「何驚いてんだよ」
「い、いや、いやいやいや! 驚くよ!? 急過ぎて! しかも怪我人にいきなりそんなこと告げる!?」
「だってお前馬鹿だろ」
「……ごめん、ちょっと意味が」
「馬鹿な女とは結婚できない、したくない」
アラストフはどこまでも残酷で。
「だってさ、子孫が馬鹿になるの嫌だろ」
そうして私たちの関係は終わってしまったのだった。
◆
あれから数ヶ月、私には今王子からの婚約希望が届いている。
王子はかつて私が助けた人だった。
それはまだ私が子どもだった頃のことだが――泥沼にはまってしまっている少年を助けたことがあって、その少年が王子だったという話だったのである。
もちろんその時の私はその少年が王子だなんて欠片ほども思っていなかったわけだが。
だがそれによって我が人生は大きな転機を迎えることとなっている。
貴族でもない私が王子に嫁ぐというのは少々無理がある話ではある。ただ王子自身はそうは思っていないようだ。彼は純粋に私と結婚したいと考えているようで、身分なんて関係ない、とも言っているようだ。罠、というわけではないだろう恐らく。
だから私は彼と生きることを選ぶつもりではいる。
険しい道かもしれないけれど……。
◆
あれから数年、私は今、夫となった王子と共に王城にて幸せに暮らしている。
ここでの暮らしにも段々慣れてきた。
最初こそ戸惑いも大きかったけれど、今ではもう馴染んで、毎日はとても心地よく楽しい。
本来妃になるような人間ではなかった。だから足りないものも多いとは思う。でもそれでも、色々学びながら、ここまで歩んできた。それができたのは偏に王子が支えてくれたからだ。彼の支えがあったからこそ様々なことを乗り越えて今に至れているのである。
きっとこれから良いことがたくさんあるだろう。
今はそう思える。
純粋に明るい未来を信じられる。
ちなみにアラストフはというと、あの後事業を始めるもあっさり失敗に終わり借金だけが残るといったこととなってしまったそうだ。で、今では借金取りから逃げ回る日々だそう。
乞食行為で稼いでほんの少しのお金だけで生活し、常に借金取りに見つかるといった恐怖に追い掛けられる――そんな人生はきっと辛くて惨めなものだろう。
◆終わり◆




