料理好きなのですが、婚約者の彼がやたらといちゃもんをつけてきて困っています。嫌いなら食べなければいいのにと思います。
私の趣味は料理だったのだが。
「お前さぁ、この料理、塩味薄すぎだろ」
「この前味が濃いと仰っていましたので、薄めに作ったのですけど……」
「美味しくねぇよ!」
「ええっ」
「塩味は料理の肝だろ!? 薄くしてどうすんだよ!!」
婚約者ボーデンはたびたびいちゃもんをつけてきた。
私が頼んで食べてもらっているわけではない。彼がたびたびやって来て食べたいと言ってくるのだ。それで仕方なく作って出すのだが、すると、そのたびにごちゃごちゃ言ってくる。
「文句を仰るのであればもう食べないでください。口に合わないものを食べても時間の無駄だと思いますよ」
「はぁ!? 婚約者だから指導してやってんだろ!?」
「……指導?」
「ああそうだ! お前が立派な女になれるよう指導してやってるんだ。分かるか? これは全部親切でやってることなんだよ!」
さらに。
「分からないならもういい……婚約は破棄だッ!!」
しまいにはそんなことまで言われてしまって。
「お前なんか要らねぇ。さっさと消えろ」
「そうですか」
「ああそうだよ! お前みないな可愛げの欠片もねぇ女はさっさとこの世から消えろってんだ!」
一方的に切り捨てられてしまった。
まぁ、男性のよくあるやつだろう。
言いなりになっていないと不機嫌になる。
女が少しでも意見を言うと怒り出す。
男性という生き物の常套手段だ、圧をかけて黙らせようとする。
◆
あの後私は料理人コンテストにて優秀な成績を収めたために王都で店を開く権利を得た。
そうして私の新たな人生が始まってゆく。
取り巻くものすべてが大幅に変わっていった。
でも、そうして得た新しい毎日は、とても楽しい。
店を営むのはかなり大変でもある。とにかく忙しい。やることが無数にあって、初期は脳が爆発しそうなほどだった。でもそれにも段々慣れて。やりながら慣れてゆくことで徐々に様々な仕事ができるようになっていった。また、温かく見守り支援してくれる人が多数いたことも、ありがたい点であった。
――私はこの道で生きてゆこう。
今はそう心を決めている。
これから先どうなっていくかなんて分からない。
でも今はやれることをやりたいことを優先してやろうと思うのだ。
ちなみにボーデンは、あの後別の女性と結婚したそうだが、彼の親との同居なうえボーデンとその親とで女性をいびり倒したために女性に出ていかれてしまったそうだ。また、女性に対してかけていた理不尽な暴言などの記録を世に出されてしまったために、ボーデンら一家は評判を大幅に下げることとなったようである。
……ま、単なる自業自得なのだが。
ボーデンら一家の未来に明るい光はない。
彼らにはもう、希望はないのだ。
◆
あれから八年ほどが経った。
私は料理店を今も営んでいる。
やはり変わらないものはあり、だが、それとは対照的に変わったものもある――先日ある男性と結婚したこととか。
仕事で知り合った男性だ。
いつも手伝いをしてくれていた彼こそが、私の今の夫である。
彼は今も仕事のサポートもしてくれている。
本当に、本当に、感謝しかない。
彼は良きパートナー。
今日に至るまで数えきれないくらい支援してもらっている。
だからこそ私も彼に何かを返したいと思っている。
◆終わり◆




