その日は突然やって来ました。けれども人生が終わるわけではありません。~ヘンテコ夫と楽しく生きています~
その日は突然やって来た。
婚約者エンビリオが重大なことを告げてくる日。
「おい、聞け!」
彼は以前からたびたび唐突にいろんなことを言ってくる。だから急に話始められることには慣れている。彼からの絡みに前触れなんてものは存在しないのだ。
「何でしょうか」
「お前との婚約だがな、破棄とする!」
突然な宣言に困惑していると。
「だ! か! ら! 婚約は破棄する、って言ってるんだ!」
彼はさらに圧を強めて繰り返してきた。
「婚約破棄……?」
エンビリオは元より身勝手な人だ。
でもだとしても不自然さは拭えない。
あまりにも唐突だから。
「そういうことだよ。お前との関係はここで終わりにするんだ」
彼はそれが当たり前であるかのように平然と言っているけれど……。
二人の結婚に関しては既に大勢の人に言ってしまっている。式の招待状だってもう出したくらいなのだ。にもかかわらず、それらが今さらすべてなしに、となればどうなるか。皆を驚かせてしまうだろうし、迷惑をかけることもほぼ確実だ。
エンビリオはどうしてそれが理解できないのだろう。
「それは……本気で仰っているのですか? もう結婚式まで半年もありません、準備だって進んでいます」
「そんなことは関係ない!」
「ですが、今さら破棄だなんて、皆さんにも迷惑が掛かってしまいます」
「だとしてもやめはやめだ!」
「えええ……」
こうして婚約は破棄となった。
◆
あの後少ししてエンビリオは死んだ。
何でも昔虐めていた友人に復讐されたそうだ。
罠にかけられた彼は山奥の小屋にて「助けてくれ」「死にたくない」などと嘆き鼻水を垂らしながら情けなく死んでいったのだとか。
……ま、べつにもうどうでもいいか。
エンビリオが悪いことをしていて、だから、そんな最期を迎えることとなった――そこには私の人生など無関係なのである。
それに、そもそも、今はもう完全に他人だし。
彼に対して思うことなど何もない。
◆
「いやはや、貴女の料理は本当に美味ですなぁ~」
「ありがとうロッツ」
「結婚し、夫婦となり、これが毎日食べられると思えば……んはぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
私はあの後ロッツという男性と結婚した。
エンビリオとはあそこで終わってしまったけれど、それによってすべてを失ったわけではなかった。
「え、ちょ、どうしたの急に」
「んんっ。失礼。思わず本心が溢れ出してしまいましたぞい」
「そうだったの……。相変わらずね」
「いやはや、こりゃあ、ほーんとに美味ですぞ!」
「ありがとう褒めてくれて」
「ぐほほほーい!!」
ロッツは少し変わった人だけれど、私にとっては良き夫だ。
◆終わり◆




