ある朝、普通に挨拶しただけだったのですが、そこから話は思わぬ方向へと進んでしまって……!?
「おはよう、アリーナ」
「あ、おはようございますカイルさん」
私アリーナと彼カイルは婚約者同士。
「君にさ、ちょっと、言いたいことがあったんだ」
「言いたいこと……ですか?」
「そうなんだ。今いいかな。ちょっと急で申し訳ない気もするけど、でも、大事な話だから」
「あ、はい、今でも大丈夫ですよ」
こんな風に話しかけられるのは珍しいことなので、どうしたのかな、なんて思っていたら。
「君との婚約は破棄とすることにしたよ!」
まさかの発言を投げつけられてしまった。
「ええっ!?」
「婚約破棄、って言ったんだ。聞こえなかった?」
「いえ、聞こえなかったわけではありません、でも……驚きまして」
「まぁそうなるだろうね」
「えっ……」
「だけどこれは大切なこと。だから言わないわけにはいかないことなんだよ。だからごめん、きちんと伝えておくよ」
そんな重大なことを告げているというのにカイルは柔らかな面持ちでいる。
どうしてそんなに普通な感じでいられるの?
……なんて、思ってしまう。
「じゃあね、アリーナ、さよなら。今日までありがとう。さようなら、永遠に」
でも運命の流れを止めることはできない。
なぜならそれは人生における運命の流れそのものであるからだ。
◆
婚約破棄から一年。
私は以前から趣味としていた刺繍の世界で大成した。
今や私はスターだ。
国家主導で開催されている刺繍大会へ応募した自作品が大賞を取ったというのが何よりも大きな出来事であった。
婚約破棄から二年半。
複数の刺繍作品大賞を受賞したこともあって、国王より直々に表彰された。
刺繍文化を盛り立てているという功績を評価されての表彰ということになったようだ。
そして、婚約破棄から三年。
同じ刺繍作家である国王の息子第一王子であるアレクセインと結婚することになった。
私は高みへと向かう。
ここはそのための第一歩。
そう、すべての始まりだ。
ちなみにカイルはというと、ある大雨の日に川が増水したところを見たくて川の方へ出掛けたきり戻らず――川の水に流されてしまったようで――亡骸さえも見つからず、そのまま還らぬ人となってしまったそうだ。
◆終わり◆




