婚約者に切り捨てられても我が道を行きます。~幼い頃から編み物が好きでした~
幼い頃から編み物が好きだった。
おばあちゃんが教えてくれたのだ。
あっという間に技術を吸収した私は十代半ばになる頃にはかなり大きな作品を作るほどになっていた。
――だが、婚約者ヴィゼット・オーヴェン・ロンレンソンはそのことをあまり良く思っていなかった。
ヴィゼットは私が編み物好きであることを知ると「なんだそれ、ババくさ過ぎだろ」と言った。それが第一声で。以降もたびたび編み物を貶めるような言葉を発してきていた。街で手編みの何かを見つければ「こんなもん誰が買うんだろな、くだらないもん売りやがって」などと言い、私が編み物をしていたところにばったり遭遇すれば「またやってるのか、はぁ、どこまでもくだらない」「さっさとやめろよ、そんなくだらない趣味」などと言ってきて、そんな感じで彼はいつも編み物に対して厳しい態度を取ってきていた。
そんなある日、彼が急に呼び出してきたと思ったら。
「お前との婚約だが、破棄とする」
そんなことを告げられてしまった。
「ババくさ女の相手をするのはもう無理。絶対。努力してきたけどさ、やっぱどうしても無理だわ。てことで、バイバイすることにしたから」
ヴィゼットが発する言葉は心ないものばかり。
「さよなら、永遠に」
――こうして私は捨てられてしまったのだった。
◆
婚約破棄されたあの日からちょうど三年になる今日、私は、国王より表彰を受けた。
ヴィゼットに切り捨てられた日から私は編み物により一層打ち込むようになった。何か別のことをして気を逸らすように努力していたのだ。いきなりの関係解消はさすがに悲しかったから。
そうして編み物に打ち込んでいるといつしか作品が凄い量になってきて。
ある時販売会に出店してみることにした。
するとそこで人気が爆発。
あっという間に時の人となった。
それからも大量の作品を作って販売した。
多くの人から自分の技術が称賛されるというのはとても嬉しいことだった。
今日の表彰は、そんな風にして編み物文化に前向きな影響を与えたということでの表彰であった。
私の価値を認めてくれる人がいる――それはとても嬉しいことだ。
ちなみにヴィゼットはというと。
あの後少しして別の女性と結婚したそうだが、女性の父親から厳しい態度を取られてしまい、それによって心を病んでしまったそうだ。
彼はもう前を向けないような精神状態となってしまっているらしい。
……そう、彼は私を切り捨てても幸せにはなれなかったのだ。
◆終わり◆




