婚約者がアイスティーを淹れてくれたので飲んでみたら美味しくて嬉しかったのですが……?
「アイスティー飲む?」
「え、いいの?」
婚約者ロバンスの家へ行って、一緒に過ごしていた時のことだ。
珍しく善意を向けられて。
私は嬉しい気持ちになっていた。
「さっき淹れたんだ。だから良かったら味見してみてよ」
「わあ! ありがとう! 私好きなのよ、アイスティー」
「それは良かった。はいどうぞ。さ、飲んでみて? 美味しくできているといいんだけど」
透明なグラスに注がれた美しい色をしたアイスティー。
魅惑的な香りがする。
紅茶好きな私にはもってこいの飲み物。
「じゃあいただくわね」
「どうぞどうぞ!」
こんなにもときめくのはどうしてだろう。
婚約者という特別な人が淹れてくれた紅茶だから?
単純に美味しそうな紅茶だから?
よく分からないけれど。
でも確かなこともあって。
それはアイスティーを飲むことは楽しいということ。
美味しい紅茶はどんな時でも心を癒してくれる。
「ああ、良い香り……好きなの、私、紅茶って」
「気に入ってもらえたら嬉しいな」
やがて口腔内に注がれる淡い味わいの液体。
ひんやり感もあいまって胸の奥に花が咲き乱れる。
「とても美味しいわ!」
「え、ほんと?」
「ええ! 淹れるの上手ね! 素敵な味わいで、うっとりしちゃう」
素直に思ったことを口にすれば、ロバンスは柔らかくえへへと笑う。
「お口に合ったみたいで良かったよ」
「素敵だわ」
「また淹れた時には飲んでもらえると嬉しいな」
「ぜひ!」
一気に飲み干してしまいたいけれどそんなことをするのは少々下品かとも思えたので少しずつ飲むように努力する。
「それにしても、そんなに嬉しそうな顔をするなんて、君は本当に紅茶が好きなんだね」
「そうよ。私、紅茶大好きなの。子どもの頃からずっと」
「子どもの頃からなんだ!?」
「ええ、家でよく飲んでいたから」
「そっかぁ、長年なんだね。それは凄いなぁ」
「凄いだなんて。そんなことないわよ。べつに高級な茶葉を使っていたわけでもないし、至って普通の紅茶だったもの。でも好きだったの。家で淹れてもらう紅茶、とても美味しかったから」
その時ふとくらりとめまいがして。
え……、と思っているうちに、意識が遠のいてゆく。
――そして私は死亡した。
あのアイスティーには毒が入っていたのだ。
ロバンスは私との関係を終わりにしたがっていたらしい。
それでアイスティーに命を奪う毒物を混ぜたようで。
私はまんまとその罠に引っかかって何も考えずアイスティーを飲み、結果、死へ至ってしまったのだった。
婚約は自動的に破棄となった。
なんということだろう……。
だがその後ロバンスには天罰が下った。
彼は何度も落雷に遭うこととなったのだ。
しかも直撃。
幸か不幸か死は避けられたようだったが、身体の多くの機能を若くして失うこととなり、大変不便な生活を強いられることとなってしまったようだ。
生きているだけで幸せ、という考えもあるだろうけれど。
彼が求めていた健康的で幸福な日々はもう永遠に手に入らない。
◆終わり◆




