幼馴染みで婚約者の彼がいつからかお誘いを断るようになり、何かおかしいなと思っていたのですが……?
幼馴染みで婚約者となった彼カイ・ロルフローレンとは定期的に会って近頃の出来事について話したり美味しいものを食べたりと共通の時間を過ごすことが習慣となっていた。
しかしある時を境に彼はそういった時間を持つことを良く思わなくなってしまったようで、こちらから誘っても「今日はちょっと……」だの「忙しい時期でさ」だの言って断るようになってしまった。
あまりにも急な変化。
どう考えても不自然。
ゆえに、何かおかしいな、と思っていたのだが。
「かぁい! 今日も来てくれたのねぇ!」
「ああ」
ある時知ってしまった。
彼がお酒を飲むことなどを含んだサービスを受けるいかがわしい店に出入りしていることを。
何も探っていたわけではないのだ。
街を歩いていた時に彼が店へ入っていく場面をたまたま目撃してしまっただけ。
「今日はぁ、どのコースにするぅ? 空き時間結構多いからぁ、一○○分でも大丈夫よぉ~」
「ラッキー」
「どうするぅ?」
「じゃあ今日はちょっと贅沢して一○○分にしようかな」
「ありがとぉ! これで仕事困らないわぁ! 嬉しい! かぁい、ほんといい人よねぇ~、愛してるぅ~」
なんということだろう。
婚約者がいる身でいかがわしいお店を利用するなんて。
◆
「ごめん、だからカイとはもうやっていけない」
「ええ!?」
「婚約期間中だっていうのにあんないかがわしい店を利用しているような人とは、申し訳ないけれど、一緒に生きていくのは無理なの」
私は決意した。
彼とは生きない、と。
「そんなこと言ったって! 僕だって男だよ! ちょっとくらい、そういうところにだって……そりゃあ、行くことはある!」
「それが無理なのよ」
一度決まった心はもう何を言われても変わることはない。
「理解なさすぎるよ! あまりにも! 酷いって!」
「なんにせよ、もう終わりよ」
「ちょっと待ってよ。話を聞いて。そんな、いきなりそんなこと言ってくるなんて、卑怯だよ」
「何ですって? 卑怯なのはどっち? 道から外れたことをしているのは? そっちじゃないの!」
それまでの私との関係を壊すようなことをして。
こちらからのお誘いも嫌そうな顔をしたうえほぼ全部断って。
それで、いかがわしいお店で楽しく過ごしているだなんて。
「カイ、あなたとの婚約は破棄とするわ」
……許せるわけがないじゃない。
「ま、待ってよ! それは困るよ! 頼むから、お願い、話を聞いてってば!」
今さら慌てたって遅いのだ。
何があろうが、何を言われようが、離れた心が元の場所へ戻ることなどない。
◆
あれから二年。
私は親戚の紹介で知り合った事業家の青年と気が合いあっという間に結婚にまで至った。
まったく別の世界、異なる世界、その中で生きてきた私たちだけれど――だからこそかお互い刺激を与え合える良い関係を築くことができ――互いに尊敬し合いながら寄り添える夫婦となることができた。
一方カイはというと、あれからもあのいかがわしい店に通っていたようだ。しかし、ある晩、酔っ払ってうっかり禁止行為をしてしまい。結果、いつもサービスしてくれていた女性から罵倒されることとなり、また、今後出入り禁止という罰を受けることとなってしまったらしい。
もっとも、当然と言えば当然の対応なのだが。
それによりこの世界で生きることに絶望したカイは自ら死ぬことを試みる。だが失敗に終わり。死にきれず、今まで通り生きることもできず。彼に残されたのは動かないまま生き続けるという非常に厄介な肉体だけであったようだ。
◆終わり◆




