学園を卒業する日に想いを告げてきた彼と婚約していたのですが、彼はその誓いを自ら破り捨てました。
あれは学園を卒業する日のことだ。
校門を通り過ぎて帰宅しようとしたちょうどそのタイミングで後ろから駆けてきた彼に声をかけられて、そこで。
――実はずっと貴女のことが好きでした。
そんな風に想いを告げられて。
彼のことは知らなかったけれど、その熱量に心奪われた。
彼のことはまだ何も知らない。でも、こんなにも真っ直ぐに誰かを想えることが凄いし、それを言葉にできることも凄いと感じて。自分にないものを持っている彼に対して私はある種の敬意のようなものを抱いた。
そうして私たちの関係は始まった――のだが。
「君にはもう飽きた。だから婚約は破棄する」
その彼アフルレッドは信じられないくらいあっさりと私を切り捨てた。
三日ほど前のこと。
彼はいきなり私を呼び出すと、相談もせず自分一人で勝手に出した決定を告げてきたのである。
あの時はさすがに愕然として言葉が出なかった。
ただ、アフルレッドの意思は固いようだったので、仕方なくではあるがそれを受け入れた。
今の彼には何を言ってもきっと無駄。
そう感じたからである。
身勝手な理由で婚約破棄されるというのは実に残念なことだ。しかし彼の心がそこで定まってしまった以上仕方がない。一度定まった他者の心を変えるなどかなり難しいことだろうし。
それならば、ここはもう諦めて、新しい未来を拓きたい。
その方がずっと有意義だろう。
私はもうアフルレッドには縛られない。
過ぎたものは過ぎたものとして記憶の中に留めておくだけにする。
それでいい。
それだけで。
◆
一度婚約破棄されたという若干不利な点はあったものの、周りからのサポートもあり、無事良い人と結ばれることができた。
おかげで今はとても幸せに暮らせている。
夫は穏やかな人。男性でありながらも暴力的な面や独りよがりなところはない。そして、家柄や仕事の関係もあって金銭的にも満ち足りた人である。
彼に巡り会えて良かった、と、心の底からそう思う。
ちなみにアフルレッドはというと。
あの後一人の美女に惚れて散々追いかけ回してようやくその人を手に入れられたようだが、後に彼女の父親が借金王であることが判明したそう。
そしてアフルレッドは美女の父親の代わりに借金返済させられることとなってしまったそうだ。
彼は今、借金返済という生き地獄を味わっている。
だがそれが彼の選んだ道。人生。だからその道が険しくとも周囲には何の関係もないのだ。
◆終わり◆




