ある日突然婚約破棄!? ……貴方とはまともに話し合えそうにないので、もうどうでもいいです。ここまでにしましょう、さようなら。
「お前との婚約は破棄する!」
赤毛の婚約者ヴィヴィットはある日突然そんなことを告げてきた。
「え、どうして?」
「どうしてだと!? ふざけるな! 理由くらい自分で考えれば分かるだろう!」
彼と私は幼馴染み。
家が近所だった縁で小さい頃からよく遊んでいた。
十代は学校が忙しくて離れていたけれど。
学園卒業後に再会して。
そこから流れるように婚約するに至ったのだ。
以降、婚約が破棄となるような問題は発生していないはずなのだが……。
「いやまったく。心当たりがないわ」
「はああ!?」
「取り敢えず怒らないで、婚約破棄の理由を伝えてちょうだい」
するとヴィヴィットは答える。
「飽きたからだッ!!」
え、と、呆れた顔をしてしまう。
「お前にはもう飽きたんだ!! 一緒にいても刺激がない、楽しくない、真面目過ぎる女とかないわー。てことで、婚約は破棄することにした!!」
――もうこれ以上話したくない。
それが正直な思いだった。
こんな人と話し合いをして何になるというのか。間違いなく無意味だろう。今の彼と冷静に常識的に話し合えるとは思えない。こちらが話し合いをしようとしても、きっと、向こうはまた大声を出すだけだろう。
なので私は婚約破棄を受け入れることにした。
幸い、彼は、こちらに慰謝料支払いなどを求める気はなかった様子――こちらに非はないので当たり前といえば当たり前なのだが――ただ、そういう意味では、ここで終わりにした場合の被害はそれほど大きくなくて。
だから彼の申し出を受け入れることとしたのだ。
◆
あの婚約破棄事件から二年四ヶ月。
ヴィヴィットは今牢屋に入れられている。
何でもあの後少しして街中で痴漢を繰り返し逮捕されたそうだ。
暇すぎるからといって犯罪に手を染めるのはどうかと思う……。
そうしてヴィヴィットの人生は終了したのだった。
彼はもうまともには生きてゆけないだろう。
仮にいつの日か解放されたとしても、この先一生、周囲の人たちからそういう目で見られることとなる。
一方私はというと、花屋を営む青年と結婚した。
今は私も花屋の手伝いをしている。
当然これは強制されてのことではない。私が私の意思で手伝わせてもらっているのだ。妻だからこき使われている、というわけではない。
なんにせよ、美しいものに囲まれて生きられることはとても幸せなことだと感じている。
◆終わり◆




