今まで放置してきていた婚約者が急に呼び出してきたのですが……?
「急に呼び出して悪いな」
「いえ……」
婚約者ハーガンに呼ばれて彼のもとへ向かった。
満月のような色をした長い髪、整った顔立ちに凛々しさのある目もと、瞳は絶望のように漆黒で髪色と合わせてそれこそ月夜を表現しているかのよう。
そんな彼だが、これまで、婚約者である私のことはずっと放置していた。
一応婚約はしたがそれはそうしなくてはならないからで私という人間には一切興味がない、というような態度を貫いていた。
「婚約だが、破棄とすることに決めた」
ハーガンはさらりとそんなことを告げてくる。
「え……」
「婚約破棄だ」
そんなに重大なことを唐突にさらりと告げてくるなんて、どういうことだろうか。
その精神。
私には理解できない。
「君と生きていく気はない。なぜなら好きになれそうにないからだ。好きになれない女とずっと一緒にいるなど苦痛でしかない。君だって想像すれば分かるだろう? 好きになれない男と生涯を共にすることになったなら、吐き気がしてくらくらしてくるはずだ」
刹那、扉がバァンと開いて猛獣が入ってきた。
「えっ……!?」
愕然としていると。
「う、う……うわああああっ!!」
噛みつかれるハーガン。
「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてえええぇぇぇぇー!!」
そうして彼は猛獣の餌となったのだった。
ちなみに私はその後別の男性と結婚。
富豪であるその人といつまでも幸せに暮らした。
◆終わり◆




