二十歳になった春、変態おじさんと婚約させられてしまいました。~こんな運命は絶対に嫌なので走って逃げます~
生まれながらにしてうなじに特殊な紋章のような痣を持っていた私は親や近しい大人たちからの気味悪がられ冷たい目で見られながら育ってきた。
そして、二十歳になった春、変態おじさんと呼ばれている男性オーポッポポと強制的に婚約させられてしまった。
「かわいいねぇかわいいねぇ、もーぅおじさん、女の子なら誰でもいいよぉー。だって女の子欲しいんだもぉん。いちゃいちゃしたいよぉいちゃいちゃしたいよぉ」
脳が溶けているような粘着質かつ不気味な声を発するオーポッポポは、初めて会った日から、いきなり気持ちの悪いことを言ったり性的な発言を繰り返したりと凄まじかった。
もうとにかく遠慮がない。
欲望に忠実。
本能に忠実。
しかもその欲望というのが彼にとって都合の良い妄想で埋め尽くされた部分が大きい欲望だから、なおさら痛々しいものがある。
もはや変態おじさんなんて域ではない。
ただの、脳が壊れている人だ。
変態おじさんが紳士に見えるレベルである。
こんな人と生きていくのは嫌過ぎる――だから私は屋敷を飛び出した。
どうして私だけがこんな目に遭わなくてはならないの。
どうして私だけが気持ち悪さに耐えなくてはいけないの。
嫌よ! 私だって!
だから私は走って、必死に駆けて、そして。
「あ」
山の中で遭遇した魔物に食べられてしまう。
(ああ、こんなところで死ぬのね私……)
でも魔物の餌になる方がましだった。
逃げたことに悔いはない。魔物に食べられる最期だとしても。オーポッポポにいちゃつくことを強要されるくらいなら、魔物の餌になる最期の方がずっと綺麗だし心地よい。
(さよなら、世界……)
◆
そうして次に気がついた時、私は、輝く日射しが印象的なとても美しい場所にいた。
知らないところだ。
大自然そのもの。
でもなぜかその風景を眺めていると心洗われるような感じがする。
「よく来てくださいましたな!」
風景をぼんやり眺めていたところ、唐突に、蝶のような姿をしたおじさんが現れる。
「え……」
最初は戸惑ったけれど。
「貴女様は我が国のお姫様でございます!」
「あの、えっと……ちょっと、意味が分からないのですが」
「うなじに紋章があられるでしょう?」
「見たのですか!?」
「いえ、使い魔がここへ連れてきたということはそういうことなのです」
「そ、そうですか……」
話しているうちに、この人は悪い人ではない、と思えてきて。
「ようこそ、本来の故郷へ!」
私はそこで生きていくことにした。
あちらの世界に未練はない。
なんせあそこでの記憶は嬉しくないものばかりだった。
捨ててしまいたいのだ、全部。
◆
あれから何年が経っただろう。
私は今もこの美しい世界で幸せに暮らしている。
ちなみにあちらの世界では私は死んだことになったらしく、オーポッポポとの婚約はそれによって自動破棄となったようだった。
オーポッポポは嘆き悲しんでいたらしい。
これからようやくたくさんいちゃついて涎でびちゃびちゃにできると思っていたのに、と。
一体何を言っているのか……。
あのままだったらどうなっていたのか、想像するだけでもどうにかなってしまいそうだ。
そんな彼だが、その後少しして逮捕されたそうだ。
路上で何人もの女性を触ったそうで捕まったと聞いている。
今は毎日鞭で打たれているらしい。もちろん誰かの趣味でではない。そういう刑に処されたから打たれ続ける運命、ということである。彼は死ぬまで永遠に鞭で叩かれ続けるのだ。
◆終わり◆




