酷い頭痛でお出掛けを中止にしてしまったその日、彼は別の女性とお出掛けしていました。
その日私は酷い頭痛に襲われたために婚約者エーゲンとの海へのお出掛けを中止にした。
エーゲンは「大丈夫だよ、また今度行こう」と言ってくれて、とても優しい人だと改めて思ったのだけれど、実はその日彼は別の女性と繁華街へ出掛けていて――幸か不幸かそれを私の父が発見することとなり、婚約関係は大変な嵐に巻き込まれてゆくこととなってしまった。
エーゲンのことは好きだった。
彼はとても優しい人。
どんな時も穏やかに接してくれる。
だから好きだったのだけれど、結局彼は私よりもそちらの浮気相手にあたる女性のことを深く愛していて。
「こんな風にあれこれ言われるのなら、君とはもういい。婚約は破棄としよう。これから先もずっと自分を偽って好きでもない女性と生きていくなんて苦痛でしかないよ」
彼は突然そんなことを告げてきた。
――だが私の父は彼からの一方的な婚約破棄を許さなかった。
「君は何をしたか分かっているのか? 浮気だぞ! 結婚前に、だぞ! そんなことをしておいて自分から婚約破棄すると言い出すとはどういうことだ! あり得ない!」
激怒していた父はそんな風に言い放ち、その後、逆に私から婚約破棄を言いわたすこととなったのだった。
よく考えてみれば当然だ。この状況、私が捨てられるのではなく彼が捨てられるというのが正しい道筋である。なんせこちらは何もやらかしていないのだから。私はあの日頭痛で休むしかなかっただけ。問題になるような行動をしたのは紛れもなく彼のほうである。
婚約破棄後、私は、エーゲンからお金を搾り取ることに成功した。
◆
あれから三十年。
よき夫に恵まれ、子も誕生し、さらには孫を抱くこともできている。
私はとても幸せ者だと思う。
善良な人たちに囲まれて特に何かに困るでもなくここまで生きてこられたのだから。
ちなみにエーゲンはというと、どうやら幸せにはなれなかったようだ。
あの時の女性と結婚を考えていたようだが女性はというとエーゲンとの結婚は考えていなかったそうで、エーゲンは好き放題して家の力も使って無理矢理婚約にまでこぎ着けたものの結局何度も浮気されてしまったそう。
で、やがてエーゲンの精神は崩壊。
エーゲンはある朝三階の窓から飛び降りて自ら死を選んだそうだ。
◆終わり◆




