婚約破棄の記憶は今も確かに。~貴方を許さない~
貴方を許さない。
そう、あまりにも身勝手だった貴方を、私は——。
かつて私たちは婚約者同士だった。
その関係性は決して揺らぐものではないと信じていた。
けれどもそれは間違いだった。
私がただそう思っていただけ。
私がただそう信じていただけ。
結局貴方は私に対して特別な感情を抱いてはいなかった。
……いや、そんなことは知っていた。
彼が私を好きでないことなんて。
彼が私を愛していないことなんて。
そんなことは分かっていたのだ。
でも、それでも、私たちは婚約者同士だから。その関係が壊れることはないと思っていた。そういうものなのだと、それが当たり前なのだと、何の迷いもなくそう思っていた。どちらかがやらかした、なんてことにならない限り、婚約破棄なんてことは起こらないものと思い込んでいた。
だが彼は。
もう要らない。
きみは僕にとって必要な人間ではない。
——そう、はっきりと述べてきたのだ。
こちらは理由を聞こうとしたけれど、彼は不機嫌まるだしの顔をしていて、聞くなと暗に圧をかけてきているかのようであった。
貴方は、貴方がしたことが酷いことであったと、理解している?
あまりにも酷いわ。
どこまでも心ない。
だから、貴方を許さない。
そう、あまりにも身勝手だった貴方を、私は——。
◆終わり◆




