病弱で何の取り柄もない女、って……私、国で一位二位を争うような魔法の才を持った女ですけど?
「お前みたいな病弱で何の取り柄もない女はもう要らん! よって、婚約は破棄とする!」
婚約者アーデルバイトはある日突然そんなことを告げてきた。
彼は私が大魔法使いの生まれ変わりであることを知らない。それゆえ、この国において一位二位を争うような魔法の才を持っているという事実も知らないのだ。
だから「何の取り柄もない女」なんて平気で言えるのだろう。
「本気で……仰っているのですか?
「当たり前だろう!」
「そうですか……」
「何だその目は。反抗的だな。……まぁいい。お前みたいなやつ、俺には必要ねぇんだよ!」
病弱であることは事実だ。
けれどもこの魔法の才を活かせば彼の支えにはなれるはず。
でも彼はそれを放棄したのだ。
……ならばもう彼と共に在ろうと思ってあげる必要もない。
何もかもすべて、ここまでだ。
「分かりました。では……さようなら」
◆
一年ほどが経った。
私は国難にその魔法の力をもって立ち向かい、国を救い、それによって国王より深く感謝され表彰された。
病弱であることには変わりはない。
けれどももう価値のない女ではなくなった。
そして国王の息子である王子と婚約――まだ少し先ではあるが、その時が来れば結婚する予定だ。
私の人生は着実に良い方向へと進み始めている。
――そんな矢先、アーデルバイトが現れた。
「久々、だな」
「そうですね。……何かご用で?」
「活躍は聞いた。魔法がすげえんだってな。初めて知ったわ」
「そうですか」
婚約者だったのに、貴方は、本当に私のことを何も知らないのね。
そんな嫌みを言ってやりたくなったくらいだった。
「で、提案がある」
「何でしょうか」
「俺のためにその力を使ってくれるってんなら、もう一回婚約してやってもいいぜ!」
アーデルバイトはそんなことを言ってくるけれど、それは明らかに馬鹿げた提案だ。
「いえ、それはできません」
「は?」
「私にはもう婚約している方がいますので」
するとアーデルバイトは「はああああ!? 生意気過ぎんだろお前えええええ!!」と、獣のように目を剥いた凄まじい形相で叫んでくる。
「断るだと!? 俺からの提案を!? お前ええええええええ!!」
「落ち着いてください」
「お前みたいな女が! 俺の提案を! 断るなんて、百年はええんだよ! 分かるか!? 分かってんのか!? 俺に逆らって生きていられると思ってんのか!?」
「私の人生は私が決めるものです」
「きいいいいいいい! きぃえええええぇぇぇぇぇぇぇぇ! ふっざけんなてめえええええ! くそがああああああ! ふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ! 女のくせに、ちょっと魔法が使えるだけのくせに、調子に乗んなよおおおぉぉぉぉぉぉぉ!? クソがああああああああ!!」
その後アーデルバイトは私に関する真っ赤な嘘を言い広めようとして国家警察に逮捕された――そして王子の妻となる人を貶めた罪深い人間として処刑されたのだった。
◆
アーデルバイトのいなくなった世界で、私は、心優しい王子と結ばれる。
もう誰も私の幸せを壊せない。
◆終わり◆




