三つ年上の婚約者が急に呼び出してきて婚約破棄を告げてきました。しかも女連れって……何ですかそれ? 無礼ですよ?
かつて私には婚約者がいた。
その男の名はエッジ。
彼は私より三つ年上で、だからか私を若干見下しているふしのある人物であった。
そんな彼はある夏の日に私を自宅へ呼び出すと、見知らぬ女を傍において待ち構えていて、そこで心ない言い方をしながら婚約を破棄するという趣旨の発言を投げてきたのだった。
その時の彼はあまりにも失礼であった。
ただ婚約破棄を告げるだけではない。
発する言葉には濃い嫌みが含まれていて。
エッジ、彼は、明確に私を傷つけるという意思を抱えているようであった。
もう今さら何を言っても無駄だろう。そう思うから、その時は何も言い返さないでおいたけれど。でもやはり良い気はしなかった。無礼なことを言われれば不快、それは誰もが当たり前に抱く感情だ。
なんせ、無礼なことを言われて喜ぶ人なんてどこにもいないのだから。
地獄に堕ちればいい。
いつの日か。
そして絶望の海に沈めばいい。
その時は失礼ながら純粋にそう思った。
◆
私に婚約破棄を告げた数週間後、エッジはこの世を去ることとなる。
「聞いた? エッジさんの話」
「うん! 聞いた! 殺されたんですって? まったくもう怖いわねぇ」
「嘘みたいな話よね」
「まさにそれ、ですわ」
街は彼の死の話でもちきり。
というのも、彼は、ある晩に何者かに殺されるという最期を迎えたのだ。
平和なこの地域においてはそういった事件は珍しいものだ。
だからこそ非常に印象的な出来事だったのだ。
「噂によれば、女にはめられたそうね」
「うっそぉ」
「何でも内臓狙いだったとか」
「ひいいぃぃぃっ」
「怖すぎ、ですわ」
彼に幸福な未来はなかった。
気に食わない私を切り捨てても。
それでも彼は自由に楽しく生きることなどできはしなかったようだ。
◆
エッジの死から、今日で三年になる。
私はもう人妻。……なんて言ったら少し変かもしれないけれど。でもそれは紛れもない事実だ。というのも、私は、良き人と巡り会えて一年ほど前に結婚できたのである。
だから今はとても幸せ。
それは誰に何と言われようとも決して変わらないもの。
「おはよう。今日は何だか髪の艶がいいね」
「そうかしら」
「素人の僕でも分かるよ。普段も綺麗ではあるけど、今日は特に綺麗だね」
だからこそ、これからも共に歩んでいきたい。
「褒めてくれてありがとう」
「いえいえ! どういたしまして」
お互いを大切にして。
お互いの心を柔らかく抱き締めて。
そうやって生きてゆきたい。
「じゃあこちらも言わせてもらうけれど、あなた、今日もかっこいいわよ」
「ええっ」
「……照れてる?」
「……う、うん、まぁ、その……あまりにもいきなりだったから」
彼となら明るい未来へ行けるだろう。
少なくとも今はそう信じることができている。
「でも、とっても嬉しいよ」
「感謝の気持ちが少しでも伝われば嬉しいわ」
◆終わり◆




