婚約者も、婚約者を奪った彼女も、この世を去ることとなりました。〜え、私? とうに高く舞い上がりましたけど?〜
婚約者と結ばれ、幸せになる。
そんな夢をみていた。
それが当たり前なものと信じて。
でも――。
「悪いが、君との婚約は破棄とする」
婚約者アルフはある日突然それがさも当たり前であるかのように宣言してきた。
「君とはもう歩まない」
「え……」
「なぜか分かるか? ……分からない、そんな顔をしているな。なら教えてやろう。簡単なことだ。……君にはもう飽きた、そういうことだよ」
しかもそんな身勝手過ぎる理由を押し付けて。
「だからもうおしまいにするんだ」
彼は冷ややかに笑みを浮かべ「さよなら」とだけ口を動かす。
――それが、終焉の鐘の音だった。
アルフは私との婚約を破棄して間もなくエリネリアという女性と婚約した。
どうやら彼女がいたから私を捨てたようだ。
恐らく、彼は私のことなんてどうでもよくて、彼女と一緒になりたい一心で生きていたのだろう。
その結果がこれ。
だからこそ彼は正当な理由を述べられない。
……だから、飽きた、なんて曖昧なことしか言えないのだ。
とにかくショックだった。でもここで折れるつもりはなくて。あんな人に折られてたまるか、そんな思いもあって。だからこそ私は負けなかった。負けたくなかったのだ、あんな自己中心的な人間に。
――そうして私は、一国の王妃となる。
アルフに捨てられた悔しさをばねに高く舞い上がった私は、若き王に見初められ、彼と結婚。
誰もが羨む位置を手に入れた。
もうアルフなんて視界にも入らない。
今なら言える。
アルフなんて貴女にあげるわエリネリア、と。
私はアルフこそ手に入れられなかったけれど、それ以上の大きなもの大切な存在を手に入れた。
◆
あれから数年。
私は今も王である夫と幸せに暮らしている。
で、アルフとエリネリアはもうこの世にはいない。
エリネリアの父親が王家を批判する過激な組織に加入しており、彼と共にある暴動に参加したエリネリアも逮捕された。そして北の収容施設へと送られる。そして、その寒い場所で、エリネリアの父親もエリネリア本人もあの世へ旅立つこととなった。聞いた話によれば、風邪を拗らせて衰弱して……という死であったようだ。
エリネリアの死後、アルフもまた王家を批判する過激な組織に加入し活動を開始。
そしてある時暴動の途中で仲間が投げた爆弾の爆発に巻き込まれ死亡した。
◆終わり◆




