ある朝、目を覚ますと……。~えええ!? な光景が広がっていて、何が起きたのかすぐには理解できませんでしたよ~
ある朝、目を覚ますと。
「おいぃ~、やめろよぉ~」
「いいじゃないのぉ」
「なんでここでそういうことするんだよ」
「好きなんだものぉ」
婚約者であるディックと実妹リシリーナが四肢を絡め合いながらいちゃついていた。
「え……」
信じられない光景を目にして、唇が震える。
駄目だ、声が出ない。
言いたいことはたくさんあって、でも、どうしてか声を上手く絞り出すことができないのだ。
嘘であってほしい。こんな光景。妹が、それも実の妹が、私の婚約者に手を出しているなんて。しかも私の婚約者である彼もあれこれ言いつつそれに応じているなんて。
「いいでしょお? ディックだってあたしのことが好きよね?」
妹リシリーナは甘い声を出して唇を彼の唇へ密着させる。
「まぁそうだけど……」
「何よぉ」
「見られてるんだが……」
「いいじゃない! お姉さまなんて低価値な女なんだから! この際、はっきりと、教えてあげようじゃない?」
キスを堪能したリシリーナは満足そうに笑う。
「こらこら」
「何なのぉ?」
「言い過ぎるなよリシリーナ」
「事実しか言ってないわぁ」
「はぁ……相変わらずだな」
「でもぉ、そういうとこが好きなんでしょ?」
「ああ。それはある。その通りだ」
――そんないちゃつきを見せつけられて、しかも。
「てことで、悪いが俺はリシリーナを選ぶ」
「ディック……」
「お前との婚約は破棄とする」
「そんなっ……」
困惑していると。
「女として、あたしが勝ったのよ」
リシリーナがそんなことを言ってきた。
「お姉さまは負けたの。敗者はさっさと去りなさい」
こうしてディックとの婚約は破棄となった。
◆
すべてを知った両親は激怒した。
二人は姉から婚約者を奪ったリシリーナを許しはしなかった。
父親はすぐに彼女を呼び出し、勘当を言いわたした。
「どうしてぇ……? お父さまったらぁ、ひどぉい……」
「お前は悪魔だ」
「お姉さまの、あんな、負け犬の味方をするなんてぇ……泣いちゃうわぁ……」
「すぐにここから出ていけ」
また、二度と家へ近づくな、とまで言い放った。
それほどに父は怒っていたのだ。
「二度と帰ってくるな」
そして母も。
「泥棒猫は死になさい」
冷ややかにそう告げたのだった。
「もういいわよ! お父さまもお母さまも要らない! あたしにはディックがいればそれでいいもの! あたしが欲しいのは彼だけ、あたしが愛しているのも彼だけ。他のわからずやなんて要らないっ。こっちから離れてあげるわ!」
――だがその後少ししてリシリーナはディックに浮気され、その件で喧嘩になったために、ボコボコにされて山に捨てられた。
そして獣の餌となり、その生涯を終えたのだった。
「ざまぁ、だな」
「そうね。まさにそれだわ。生んでおいてなんだけれど……あんな最低な女、どうなろうが自業自得よ」
父も、母も、彼女の死を悲しみはしなかった。
ちなみにディックはというと。
彼もまた一年も経たないうちにこの世を去った。
何でも浮気相手の女から変な菌を貰ってしまったそうで、病気によってみるみる弱り、そのまま死に至ったそうなのである。
◆
あれから数年。
私は今、とても幸せな日々の中に在る。
「あ、おはよう」
夫は朝に強い人。
けれど私が少し寝坊しても責めたりはしない。
「もう起きてたの!? 早くない!?」
どんな時も、彼は笑顔で接してくれる。
「ちょっと仕事があってね」
「そうだったのね……」
そんな彼と一緒にいると自然とこちらにまで笑顔が増えてくるから不思議なものである。
「うん。あ、そうだ、朝食だけど」
「ごめんなさい私まだ準備できてなくって……」
私はこれからも彼と共に歩む。
そして今ここに在る幸福を守り続ける。
「作っておいたよ」
「ええっ!?」
「簡単なもの、だけどね」
「あ、ありがとう……っていうか、ほんとごめん色々……」
「気にしないで、僕がやりたかっただけだから」
「ありがとう、本当に。……本当に、ありがとう。もう、泣きそう。泣きそうなくらい……感謝しかないわ」
◆終わり◆




