婚約者の浮気が発覚したのは、ある夏の日でした。〜裏で私の悪口を言っているなんて酷い人ですね、もう終わりにしましょう〜
婚約者ルヴェンズの浮気が発覚したのは、ある夏の日であった。
「好きだよお」
「んもぉ、ルーったらぁ、甘えたさぁん」
その日私は街へ出掛けていた。
そして見てしまったのだ。
ルヴェンズが見知らぬ金髪の女性と路地裏で抱き合い唇を重ねている場面を。
「いっつもこうねぇ」
「だってえ、好きなんだもん」
「もぉ、やめなさいよぉ、婚約者いるんでしょぉ?」
「いるけど、あんなやつどーっでもいいんだよお。美しくないし刺激的でもないし、形だけの婚約で、ちっとも楽しくないんだよお」
しかもルヴェンズは私の悪口を言っていた。
「だから慰めてよおおお……」
「結婚したらもう会うのは無理だものねぇ」
「いやだー、会いたいー、離れたくないよおー」
「なら婚約者と別れなきゃ」
「ううっ……無理なんだよおそれはあ……うう、辛い、辛いいい……」
もう我慢できない。
そう思った私は二人の前へ足を進める。
「ルヴェンズ、そんな風に思っていたのね」
悪口を言われてまで私は彼と一緒にいたくはないのだ。
「ならいいわ、婚約は破棄としましょう」
「えっ……!?」
「他の女に悪口を言うほどだものね、よほど私のことが嫌いなのでしょう?」
にこり、笑みを浮かべてやれば。
「ち、ちちっ、ちがっ……」
今さら焦ったような顔をするけれど。
「さっきの会話、録音させてもらったから」
「盗聴!?」
「だから、ね? 別れましょう私たち。その方がいいと思うわ」
もう手遅れ。
私たちに共に歩む道はない。
「や、ちょ、待って!!」
「親にも話します」
「やめて! 違う! そうじゃないんだ! あ、そ、そう! あれは言わされていただけ! 彼女とは本気の交際じゃないんだ、本当なんだ……遊びだよ!!」
汗の粒が額に浮かぶような暑さの中、私は一人道を行く。
信じていた、彼を。
信じていた、未来を。
幸せになりたかった。
普通に、平凡でいいから、普通に穏やかに……生きていきたかった。
でも、それは、叶わない願いだった。
その後ルヴェンズとの婚約は破棄となった。
彼の行いを世に出し、それを根拠として、関係を解消することとしたのだ。
父は特に彼の行動に怒っていた。
だからこそ婚約破棄に関して色々手伝ってくれたし何なら私以上に熱心に取り組んでくれた。
そのかいあって、慰謝料をもぎ取れた。
始まりへと戻った私。
すぐには笑えない。
けれども永遠にここにいることはないから、いつかはまた立ち上がり歩き出すのだろう。
それが人というものだ。
苦しみも、絶望も、越えて生きてゆく――それが人間という生き物の本質。
◆
あれから数年。
私は歴史ある家柄の心優しい青年と結婚、今は夫婦で穏やかに暮らせている。
ルヴェンズとは上手くいかなかったけれど、それがあったからこそ彼に出会えた。そう思えば、ルヴェンズとのあの日々も意味はあったのかもしれない。今はそう思う。ただ私がそう思いたいだけかもしれないけれど。でも、幸せな今がある以上、生きてきた道が間違いであったとは思わない。すべての経験が私をここへ連れてきてくれたのだと、今はそう確信している。
ちなみにルヴェンズはというと、婚約者であった私に捨てられたうえあの女からも「遊びとか言うとか、ないわ」と言われて切られ、あれ以降一人ぼっちになってしまっているそうだ。
またそれによって心を病みつつあるそうで。
今の彼には明るい未来図などありはしない。
◆終わり◆




