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その19、異世界トリップの心得


 ただのセリ十七歳 改め

 セリカ――二十四歳。


 気が付けばあたしが異世界トリップしてから、はや三年が過ぎていた。


「ただいまー! マスターからケーキ貰ってきたから食べよー!」

「おかえり」


 玄関まで迎えてくれたのは翔太。彼もこの世界にきて一年がたった。

 まだ幼い顔なのに身長はすくすく伸びて、きっともうすぐ抜かされてしまうだろう。お医者さんになる勉強も診療所のお手伝い遣り甲斐があるらしく、毎日が楽しそうなのが嬉しい。


 そしてあたしと言えば、別名義で作家として正式にデビューした。それを追っかけるように新人小説家なるものがぽこぽこ出てきて、偉そうにも指南がてら図書館に通い、出る杭を打つ――いやいや温かく見守る日々を過ごしている。


「紅茶の準備するね」

「うん、ありがとう」


 オレンジのギンガムチェックのカバーを敷いた食卓には、翔太とあの人とあたし。

 仲が悪いわりに嗜好が似ているらしい二人は、さっそく切り分けたアップルパイを幸せそうにつついている。……まぁ、テーブルの下のその足はお互いの足を踏んづけあってるんだけど。


 綺麗な飴色に焼かれたパイを切り分けるサクっとした音。

 それに優しく交じるような紅茶の匂い。



 ……幸せだなぁ、と思う。


 結局私は今保育士さんみたいなものだし、小学生の卒業文集に書いた夢である小説家にもなることが出来た。


 向こうでは手に入らなかった家族と、こうしてテーブルを囲んで、お茶してる。

 長生きは出来なかったみたいだけど、そう悪くない人生じゃない?


 喧嘩しないようにパイを切り分けておこうとした所で、窓の向こうから複数の馬の蹄の音がした。



「……」


 またあの人達か、と立ち上がる。

 テーブルに残った二人は、かなりうんざりとした表情で溜息をついていた。


 それもまたいつも通り。

 賑やかに日常は過ぎていく。







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