183.グレイスたちの発明
気球がもたらした熱狂と衝撃が、まだ会場の空気を支配している。その中で、俺たち「アスガルド・ワークス」はステージへと足を踏み入れた。
「無茶苦茶アウェーだな……」
「気にする出ないわ。技術者は言葉ではなく腕で語るんじゃ。発明品の前ではすべてが公平じゃよ」
「確かにな……誰にも期待されない状況ってのは慣れてるしな。そして、俺は信頼すべき仲間がいれば乗り越えれるってのもしってるんだよなぁ」
観客たちの視線は、期待と、それ以上の好奇と懐疑に満ちている。彼らの目の前には、幕で覆われた大きな物体が鎮座していた。気球ほどの巨大さはないが、それでも人が乗ることを前提とした確かな存在感を放っている。
「皆様、ご紹介します! これが我々の発明、『蒸気小型飛行機』です! 偶然にもこちらも空を飛ぶものです」
俺の合図でガラテアが幕を引くと、翼を持つ鉄の塊が姿を現した。中央には操縦席が一つ。その武骨な姿に、会場からは「なんだあれは?」「あんな鉄の塊が飛ぶのか?」という囁きが漏れてくる。俺は深呼吸一つし、マイクを通して声を張った。
「先ほどの商業連合の『気球』、素晴らしい発明でした。人が空に浮かぶという、長年の夢を現実にしたのですから。しかし!」
俺は言葉を切り、会場を見渡す。そして、客席にいるガラテア(人)の姿を真っ直ぐに見据えた。
「浮かぶだけでは、本当の自由とは言えません。風に流されるのではなく、自らの意志で空を駆け巡る。行きたい場所へ、誰よりも速くたどり着く。我々が目指したのは、そんな『空の未来』です!」
俺の宣言に、会場は静まり返る。俺は覚悟を決め、操縦席へと乗り込んだ。ボーマンが手際よくボイラーに火を入れ、ヴィグナが機体にそっと手を触れ、魔力を流し込み始める。蒸気が満ちるまでの短い時間が、永遠のように感じられる。
「蒸気、十分じゃ!」
「魔力安定、いつでもいけるわ!」
「よし……いくぞ!」
俺は操縦桿を握りしめ、足元のバルブをゆっくりと踏み込んだ。プロペラが甲高い音を立てて回転を始め、機体全体が激しく震動する。観客が固唾をのんで見守る中、機体は滑走を始め、そしてふわりと……しかし、ほんの数メートル浮いたところで、ぐらりと左に傾いた。
「あっ……!」
会場から、失望のため息が漏れる。ヴィグナが「くっ……!」と歯を食いしばり、風魔法で必死に機体を支えようとする。操縦桿を通して伝わる不安定な挙動に、俺の心臓が嫌な音を立てた。ここまでか……?
だが、その瞬間だった。機体は一度大きく揺れた後、まるで意思を持ったかのように体勢を立て直し、すうっと安定した高度まで上昇したのだ。今までのどの実験よりも高く、そして力強く。
「いける……!」
俺は操縦桿をゆっくりと右に傾ける。すると、機体は滑らかに右へと旋回を始めた。左へ、そして上昇、緩やかな下降。それはまるで、空を舞う一羽の鉄の鳥だった。
ただ浮くだけではない。人が乗り、自らの力で推力を生み出し、翼で揚力を得て、自由に飛翔する。その光景に、先ほどまで懐疑的だった会場は完全に沈黙し、やて誰からともなく感嘆の声が上がり始めた。
「な……人が乗って飛んでいるぞ!?」
「自分の力で、空を飛んでいる!」
その声は次第に大きくなり、やがて地鳴りのような歓声と拍手へと変わった。気球が見せた「静」の感動とは全く違う、「動」の興奮が会場を包み込む。
審査員席のユーベルさんは、椅子から立ち上がらんばかりに身を乗り出している。
「信じられん……! 人が乗り、風に頼らず、自らの力で空を駆けるだと!? これは……これは移動の概念そのものを覆す、まさしく革命じゃ!」
俺は客席に目をやった。ガラテア(人)は、その美しい顔から表情を消し、空を舞う俺の機体をただじっと見つめていた。その瞳に浮かぶのは、驚愕と、そして自分の発明が霞んでいくことへの悔しさか。彼女は、俺が言った「未来」の意味を、今この瞬間、痛いほど理解しているはずだ。
そして、もう一人。会場の隅で、セグルが熱に浮かされたような瞳で機体を見つめていた。彼の目は爛々と輝き、その口元にはかすかな笑かべてぶつぶつと呟きながら何やらメモってる。
「……」
何あれ怖い……
彼が何を見ているのか、俺にはまだわからなかったが、その視線がただ純粋な賞賛だけではないことだけは確かだった。
完璧な飛行を終え、機体は緩やかに降下し、軽い衝撃とともにステージへと着陸した。割れんばかりの拍手の中、俺は操縦席から降り立ち、駆け寄ってきた仲間たちと顔を見合わせる。そして四人で並び、深く、深く頭を下げ、退出するのだった
やっと色々と落ち着いてきた……更新止めてすいません




