182.ガラテア(人)の発明
会場のざわめきが徐々に高まる中、ユーベルさんを筆頭とした審査員たちがステージに上がり、発明大会の本番が始まった。
俺たちの順番はまだ先なので他のチームの発明品を観察させてもらおうと思う。
「それでは、参加者の皆様、ご自分の発明品の発表をお願いいたします!」
最初にステージに上がったのは、白髪の老魔導師とその弟子たちだった。どこかの商会のお抱えの魔導士なのだろう。
「これは、魔力を利用した自動掃除機です。家事の負担を減らすために作られました。」
「定期的に魔力を込める必要はありますが、留守でも掃除をしてくれますよ!!」
ホウキ型の装置が床の上をすいすいと動き、観客からは感嘆の声が上がる。
「なるほど……ホウキタイプのゴーレムか……簡単な命令ならば聞いてくれるからな」
「へぇ、便利じゃない」
「じゃが、段差への対応や物を識別する能力はなさそうじゃな……もっと改善点はありそうじゃ」
「私の方が有能ですよ、マスター」
俺が感心した声をあげるとそれぞれが反応を返してくる。ヴィグナはよくわからないけど同意してくれてボーマンはダメ出しだ。
そして、ガラテアはなにやら対抗心を燃やしているようだ。
次に登場したのは、若い魔導士と職人のグループだ。彼らはどこかの所属ではなく、同年代で手を取って活動しているらしい。
「こちらは、音声で操作できる魔法ランプです。『明るくして』と声をかけるだけで、明るさが変わります。」
ステージ上でランプが明るくなったり暗くなったりするたび、会場は拍手に包まれた。
「あれは……ゴーレムじゃないのか。声で操作か……何かに応用できそうだな。あとでちょっと詳しい話を聞いてみよう」
会場は発明家たちの熱気でむんむんとしていた。ステージの上では、次々と奇抜な発明品が披露されていく。
そのたびに観客からは「おお~!」「すごい!」と感嘆の声が上がり、会場の空気はどんどん熱を帯びていった。
そんなかで観客たちがひときわ大きな声を三人組の中年チームだ。見覚えのある紋章の旗をかがげているのでどこかの国の貴族の使いなのだろう。彼らが布を外すと、そこには丸っこい顔のゴーレムが現れた。
「私たちの発明は、万能家事ゴーレムです!」
「家事全般を自動でこなしてくれる、家族の新たな一員です! 本来のゴーレムは細かい作業は苦手ですが、とある貴族令嬢のアドバイスにより改善された一品です!!」
ゴーレムは優しい表情で、掃除・洗濯・料理の下ごしらえを器用にこなしていく。
観客席からは「すごい!」「うちにも欲しい!」と声が上がり、主婦層や年配の方々からは特に大きな拍手が湧き上がった。
「ねえ、これの貴族令嬢って……ノアのことじゃないかしら?」
「あいつ何やってんの?」
「じゃが、確かに便利そうじゃ。うちにも一台欲しいのう」
「マスターには私がいるから不要ですよ」
グレイスは苦笑いしながら、隣のガラテアを見ると、何やら対抗心を燃やしているようだ。
発明品の発表が続く中、グレイスはふと、ステージの隅で黒いカバーに包まれた発明品を目にする。
「……あれは、何だ?」
「なんか嫌な予感がするわ。グレイス」
ヴィグナが眉をひそめる。その時、一人の青年がステージに上がり、カバーを外した。
「こちらは、我々が開発した『超遠距離精密射撃装置』です。これを使えば、遠く離れた標的も正確に狙い撃つことができます。」
カバーが外されると、そこには長い鉄の筒と、精巧な引き金が付いた奇妙な装置があった。
グレイス俺はその姿を見て、一瞬で凍り付く。
「……まさか、あれは……」
「わしらのつくったものじゃな。しかも、かなり高品質じゃ」
と声を詰まらせる。
その瞬間、発表者が実演を始める。
「それでは、実際に発射してみます!」
バン!
鋭い銃声が会場に響き渡り、観客は一瞬静まり返る。
ステージの端に立てられた的は、見事に中心を撃ち抜かれていた。
俺は拳を握りしめ、ステージ上の発表者を見つめる。
「あいつがセグルか……銃だけでなくライフルまで……だが、設計図は誰にも渡していないはずなのに……」
「グレイス、落ち着くんじゃ。今は発明大会だ。しっかりと自分の発表をやり遂げようぞ」
ボーマンがと肩を叩いて落ち着くように訴えてくる。彼だって共同開発したものがぱくられてれいせいではないはずなのに……
「……ああ、わかってる。でも、あれが本当に俺の設計図から作られたものなら……
絶対に、自分の手で証明してやる。」
会場は再び賑やかになり、次の発表が始まる。
そして、俺たちは、自分たちの番が来るまで、静かに機体の最終確認を続けた。
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セグルの発表が残した不穏な空気は、しかし、すぐに次の発表者の登場によって塗り替えられていく。会場の熱気が再び最高潮に達しようとしていた。
「さあ、続きましては、この発明大会で幾度となく我々を驚かせてきた、あのチームの登場です! 商業連合、代表ガラテア様!」
司会者の高らかな紹介と共に、ガラテア(人)がステージへと優雅に歩みを進める。彼女が纏うのは、商談の場とはまた違う、自信と革新の色を帯びたオーラ。観客席からは、期待に満ちた拍手が鳴り響いた。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」
商業連合の長である彼女は慣れているのだろう。凛とした声は会場の隅々まで届く。
「人はいつの時代も、まだ見ぬ世界に憧れを抱いてきました。ダンジョンの果て、海の底……そして、遥か天空へ。今日、私がお見せするのは、その夢への新たな一歩です」
彼女が手で合図をすると、部下たちが巨大な布と、人が一人二人乗れそうな大きな籠をステージ中央へと運び込む。会場は「あれは一体何だ?」とざわめきに包まれた。
「グレイス、あれは……」
「わからん。だが、ただの布と籠じゃないことだけは確かだ」
俺が固唾を飲んで見守る中、ガラテア(人)はにやりと笑い、高らかに宣言した。
「我が発明品の名は『気球』。炎の力で、人を空へと誘う、夢の乗り物です! そう、魔法で一時的に飛ぶのではなく、発明の力で飛ぶのです!!」
その言葉を合図に、部下たちが籠に設置されたバーナーに火を灯す。ゴォォッという轟音と共に、巨大な炎が吹き上がり、巨大な布……球皮の内側へと送り込まれていく。
しなびていた球皮が、熱風をはらんで少しずつ、しかし確実に膨らんでいく。その光景は、まるで巨大な生命が産声を上げるかのようだった。
「嘘でしょ……あんな大きなものが……」
ヴィグナが信じられないといった様子で呟く。
「熱した空気は、周りの冷たい空気よりも軽くなる。その浮力を利用して浮き上がる
という仕組みじゃな……単純じゃが、これほど巨大なもので実現するとは、見事な発想じゃわい!」
ボーマンが唸るように感心する。彼の職人としての魂が、目の前の光景に揺さぶられているのがわかった。
そして、それは俺も同様だった。ああいうふうな飛ばし方もあるのだなと……
やがて、完全に膨らんだ気球は、その巨体をゆっくりと地上から離し始めた。ロープで繋がれてはいるものの、ふわりと宙に浮き、ステージの上で静かに揺蕩う。魔法ではない。炎と空気という、ごく自然の法則を利用した、純粋な技術の結晶。
その圧倒的なスケールと、誰もが見たことのない光景に、会場は一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手と喝采に包まれた。
「おお……素晴らしい! まさにソウズィの知識の真髄! 人が空を飛ぶなど、物語の中だけの話だと思っておりました!」
審査員席のユーベルさんが、少年のように目を輝かせて立ち上がる。他の審査員たちも、観客たちも、誰もがその壮大な発明に魅了されていた。
「マスター……」
隣でガラテアが心配そうに俺の服の袖を握る。確かに、この後に出ていくのは分が悪い。俺たちの小さな蒸気飛行機は、この巨大な気球の前ではあまりにも矮小に見えてしまうかもしれない。
ガラテア(人)は喝采を浴びながら、ステージ上から俺に視線を送ってきた。その瞳が「どう? これが私の実力よ」と語っている。
だが、その挑戦的な視線を受けて、俺の心に宿ったのは恐怖や焦りではなかった。
「……面白いじゃないか」
俺は思わず、好戦的な笑みを浮かべていた。
そうだ。彼女は「人を乗せて空を飛ぶ」という夢を見せた。だが、俺たちの発明は、その夢の、さらに先を見せるものだ。
「グレイス……?」
「ああ、大丈夫だ。ヴィグナ。確かにすごい発明だ。だが、俺たちの『蒸気小型飛行機』は、こいつを超える」
俺はヴィグナ、ボーマン、そしてガラテアの顔を見回す。みんなの顔には不安と、それ以上の期待が浮かんでいる。そうだ、俺は一人じゃない。
ガラテア(人)がステージを降り、俺たちのすぐそばを通り過ぎる。
「せいぜい、この会場の熱を冷まさないように頑張ることね」
そう囁く彼女に、俺は笑って返した。
「ああ、任せとけ。あんたが見せたのが『夢』なら、俺たちが見せるのは『未来』だ」
その時、司会者の声が響き渡る。
「素晴らしい発表でした! それでは、次なる挑戦者の登場です! アスガルドよりお越しのチーム、『アスガルド・ワークス』の皆様、ステージへ!」
俺は仲間たちと共に、ゆっくりと立ち上がった。会場の視線が、一斉に俺たちへと注がれる。
手にした箱の中には、俺たちの汗と、知恵と、そして夢が詰まっている。
さあ、見せてやろう。アスガルドの……ソウズィの後継者の本当の実力を。




