表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

180/184

179.飛行機

「よし、夜が明けるまでに、もう一機いくぞ!」

「ああ、もうちょっとで色々と掴めそうじゃからの」



 軽い食事を終えて俺たちは再度作業に入る。浮くことはわかった。あとはもっと長時間の飛行だ。



「ボーマン、次はどこをいじる?」

「ふむ……やはり重心じゃな。前回は後ろに寄りすぎておった。今度は鉛をもう少し前に移してみようかの」


 ボーマンは工具箱をゴソゴソと漁り、小さな鉛の塊を取り出した。俺はサンドイッチを片手に、もう片方で機体を押さえる。


「よし、これでどうじゃ?」

「たぶん……いや、きっといいはずだ。たぶん」


 俺たちは顔を見合わせて苦笑した。さっきまでの興奮が、今は静かな期待に変わっている。



「グレイス様、コーヒーもどうぞ」



 ガラテアが湯気の立つカップをそっと差し出してくれる。俺は礼を言い、ひとくち飲んだ。



「よし、いくぞ。ボーマン、火を頼む」

「任せるんじゃ!」



 火打ち石の音が響き、再びボイラーに命が宿る。蒸気が溜まるまでの数分間、俺たちは黙って機体を見つめていた。ヴィグナは呆れ顔で窓辺に立ち、ガラテアは静かに見守っている。



「……グレイス、わしは思うんじゃが」

「なんだ?」

「この小さな機体にも、きっと夢は詰まっておる。飛ばすことができれば、きっと……」



 ボーマンの言葉に、俺はうなずく。そうだ、たとえ今は猫しか乗れなくても、この一歩が未来につながる。



「蒸気、十分じゃ!」

「バルブ、開ける!」



 俺は慎重にバルブをひねる。プロペラが勢いよく回転し、機体がふわりと浮き上がる。今度は、さっきよりも高く――十センチ、いや、十五センチ!



「おお、すごいぞい!」

「まだ安定してる……!」



 だが、その瞬間、機体が微かに左へ傾き始めた。



「グレイス、右の翼を押さえろ!」

「わかった!」



 俺は慌てて翼に触れ、バランスをとる。機体は空中でふらふらと揺れながらも、なんとか落ちずに耐えている。



「よし、今度は……」



 ボーマンが何か言いかけたとき、ガラテアが小さく声を上げた。



「マスター、後ろのねじが緩んでいます!」

「なにっ!?」



 俺が振り返るより早く、機体は再びバランスを崩し、今度は作業台の端にぶつかって、床に落ちた。



「……またか」

「いや、今のは惜しかったぞい!」



 俺たちは顔を見合わせ、思わず笑い合った。ヴィグナは呆れたままだが、ガラテアは小さく拍手をしてくれている。



「次は、ねじの締め方も見直そう」

「うむ、そして翼の素材も変えてみるかの。もっと軽いものを使えば、さらに高く飛ぶはずじゃ」


 俺はサンドイッチをもう一口かじり、決意を新たにした。



「よし、次だ!! 次こそいけるはずだ」



 俺がそう宣言した瞬間、窓辺で腕を組んでいたヴィグナが、ふいにこちらへ歩み寄ってきた。頬をわずかに赤らめ、わざとらしくそっぽを向いている。



「……べ、別に手伝いたいわけじゃないけど。見てられないから、ちょっとだけ魔法を使ってあげるわ。あんたがまた失敗して床を焦がしたら困るし」

「え、珍しいな、ヴィグナが発明をてつだってくれるなんて……」

「マスターがおそらく構ってくれなかったので拗ねているんだと思いますよ」

「違うわよ!! 変な勘違いをしないで」



 ツンとした態度のまま、ヴィグナは指先に魔力を集める。彼女の魔法は本職じゃないが、俺の為にと一生懸命にしてくれているのだろう。



「ヴィグナ、助かる! じゃあ、火打ち石に使われている魔石に火の魔力をこめてくれ」

「あとは……そうじゃな。飛行機が飛ぶ瞬間に翼を風魔法で覆ってほしいんじゃ。一度飛べばあとは安定するからのう

「一気に言うわね……でも、わかったわ。任せなさい」



 ヴィグナはぶっきらぼうに言いながらも、火打石に魔力を注ぐと一気に輝いていく。


「おお……すごいぞい、やはり市販の魔力入りの火打石とはレベルが違うぞい!」

「当たり前でしょう。私だっていろいろ特訓しているのよ」



 ヴィグナはちらりとグレイスを見て、すぐに目をそらす。その横顔はどこか誇らしげだ。



「ヴィグナ、ありがとう。これでバランスも良くなるはずだ」

「べ、別にあんたのためじゃ……って、まあ、少しは期待してるけど」



 ガラテアが微笑みながらサンドイッチを差し出し、ボーマンは「よし、これでまた一歩前進じゃな!」と満足げにうなずく。



「じゃあ、もう一度火を入れるぞ!」



 今度はヴィグナも作業台のそばに立ち、魔法で機体の微調整を手伝ってくれる。彼女の魔力がほんのりと機体を包み、蒸気の力と魔法が合わさって、ついに機体はふわりと――今までで一番高く、そして安定して浮かび上がった。



「やった、ヴィグナ! これ、お前のおかげだ!」

「な? こんなところで抱き着くんじゃないの。でもまあ、私も成功して嬉しあったわ!」


 顔を真っ赤にしてそっぽを向くヴィグナ。だがその背中は、どこか嬉しそうに小さく震えていた。

 この光景に昔を思い出す。三人でボーマンの作業場で遊んでいていた時に事……そして、アスガルドに来てガラテアと出会ったときのこと……

 そう、俺達の物語は発明から始まったのだ。

やはり、発明している時のグレイス君が一番楽しそう……

領主の仕事はいまごろノアががんばってくれてますw


新連載の投稿をはじめました。


聖剣を奪われ、偽勇者と追放された俺だけど――それでも世界を救う英雄を目指さなきゃいけない!


主人公ではなかった少年が主人公を目指す物語です。こちらもよろしくお願いいたします。


https://book1.adouzi.eu.org/n0399km/1/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ