178.新たな発明品
臨時で借りた工房の奥、煤けた窓から差し込む陽射しが、作業台の上の真鍮パーツを鈍く照らしている。俺……グレイスは、汗ばんだ額をぬぐいながら、目の前の小さな機体を睨みつけていた。
「ボーマン、本当にこれで飛ぶのか?」
「飛ぶにきまっておるじゃろ、理屈の上ではな!」
ボーマンは、分厚い指で慎重にネジを締める。彼の髭には石炭の煤が絡み、鼻歌まじりの手つきからは妙な自信がにじみ出ている。
そう、俺たちが作っているのは、人が乗れないくらい小さな蒸気飛行機……せいぜい猫が乗れるかどうかってサイズだ。
『世界図書館』により解禁された飛行機……の小型版である。魔法をつかっても本来のサイズはまだ不可能なのだ。
「じゃあ、いくぞ」
動力は石炭を燃やして発生させた蒸気。ボーマンが作ったミニチュアのボイラーに水を入れ、俺が火打ち石で点火する。
「よし、グレイス、バルブを開けるんじゃ!」
俺は緊張しながらバルブをひねる。ボイラーの中で石炭がパチパチと音を立て、やがて機体の中で蒸気が圧を増していく。小さなプロペラが、カタカタと回り始めた。
「おお、回ったぞい!」
「まだだ、まだ浮かない……」
俺たちは機体のバランスを何度も調整した。翼の角度を変えたり、重りを移動したり。ボーマンは「風の流れを読むのが肝心だ」と偉そうに言うけど、正直、俺にはさっぱりだ。
「グレイス、今度は羽根をもう少し反らせてみろ。ドワーフ流の“ちょい足し”じゃ!」
「はいはい……って、これでいいのか?」
「そう、そんな感じじゃ。さあ、もう一度火を入れてくれ!」
再び蒸気が満ち、プロペラが勢いよく回る。今度は、機体がふわりと浮き上がったほんの数センチ。でも、俺とボーマンは顔を見合わせて、思わず叫んだ。
「やった、浮いたぞ!」
……次の瞬間、機体はバランスを崩して作業台から転げ落ち、床の上でカタカタと音を立てて止まった。
「惜しいな、あと一歩だったな!」
「でも、ちゃんと浮いたぞい」
「次はもっと高く飛ばしてやろうじゃないか!」
俺たちが楽しそうに騒いでいると食事を持ってきてヴィグナとガラテアが入ってきて絶句している。
「ボーマンはともかく、グレイスまで何て格好をしているのよ……王族なのよ……」
「ふふ、マスターが楽しそうでなによりです、差し入れをもってきましたのでどうぞ」
ヴィグナがあきれるのも無理はない。今の俺は様々な工具をつかっているため服は汚れだらけでありとてもではないが領主には見えないだろう。
だが、それでもよいのだ。今のは……発明の前では一人のグレイスなのだから。
「何個も試作してまにあわせるぞ」
ガラテアが作ってくれたサンドイッチをほおばりながら俺はそう誓うのだった。




