171.発明品好きの貴族
「おお、あなたがかの『アスガルドの発明王』グレイス殿ですか。お噂は聞いておりますよ。こんなところまできていただき申し訳ありません」
「いえいえ、急なお願いだったのに時間をあけてくれてありがとうございます。ユーベルさん」
出迎えてくれた貴族……ユーベルは想像とは違いかなり好意的だった。てっきり商業連合の息がかかっているかと思ったがそういうわけではないらしい。
ユーベルはヴァーミリオンではみない変わった柄の礼服に身を包んだ三十歳くらいの青年だ。そして、今いる応接間には様々な見慣れないものがおかれている。
「私は新しいものを見るのが趣味でしてね。それが民の生活をよくするものならばなお良いと常々思っているのです。それで……そちらが噂のソウズィの遺物なのですか?」
「はい……私はガラテアと申します。アスガルドの領主であり、ソウズィの正当な後継者であるグレイス様の元で働かせていただいております。以後お見知りおきを」
「おお、本当にしゃべるのですね!! しかも、主の命令もなくお辞儀をするとは……素晴らしい!! さすがはソウズィの作ったものですな!!」
ガラテアが相も変わられず流れるような動作できれいなお辞儀をするとユーベルが興奮しながら声をあげる。
正統な後継者という言葉にガラテア(人)がほほを引きつらせていたが気のせいではないだろう。
はは、ざまぁ!! だけど、一つだけ断っておくことがある。
「ありがとうございます。ユーベルさん。ですが、彼女はただのソウズィの遺物ではありません。彼の娘であり、アスガルドの大切な領民なんです。そこだけは言わせてください」
「ほう……ですが、ただの発明品ではなく、彼女を一つの生命体として扱うということですか?」
「そうです。だって、彼女がいたから今の俺はあるんです。それにソウズィは彼女を娘と呼んでいたそうです。ならば私も彼女を一人の少女として接したいと思うのはおかしなことでしょうか?」
「……マスター」
ガラテアが嬉しそうにほほえみ俺の手を握りしめてくる。それに対しユーベルさんは一瞬目を大きく見開いて興味深そうに笑った。
「なるほど……それは失礼いたしました。それでグレイス殿も私の発明品コンテストに出てくれるというのは本当ですか? アスガルドの噂は聞いております。わざわざ異国の地で活動しなくてももう十分なのでは?」
「そこは私が説明しましょう」
それまで黙っていたガラテア(人)が一歩前に出ると笑みを浮かべながら俺とユーベルを交互に視線を送った。
「ここ数年は私の経営する商業連合がずっと優勝していますよね? それではつまらないと思い特別ゲストとしてお呼びしたのです」
「なっ?」
そんな話は聞いていないぞと驚くがガラテア(人)は話を合わせろとばかりに視線で訴えてくる。まあ、ユーベルという人がどれだけこいつらと懇意にしているかわからない以上同意するしかないだろう。
「ええ、ユーベル様の発明品コンテストの評判を聞きまして。ぜひとも俺も自分の力を見せたいと思ったのです。必ずやもりあげることを約束いたしましょう」
「おお、すばらしいことですね。ソウズィの知識を持つお二人が参加してくだされば必ずや盛り上がるでしょう!! それではこれまでの発明品を説明しましょう。コンテストに役立ててください」
すっかり上機嫌になったユーベルさんは発明品コンテストの歴史やこれまでエントリーされたアイテムについて詳しく説明してくれる。
「これは一体何に使うものなんですか?」
その熱意に少し押される……わけもなく、俺もついむっちゃテンションが上がっていろいろときいてしまった。
二人のガラテアとエミリオがちょっと引いていた気がするがきっと気のせいだろう。
そして、いろいろな発明の話をきいて満足して部屋をあとにするとガラテア(人)に呼び止められる。ちょうどこちらも話したいことがあったからちょうどいい。
「お前らが招待したっていうのはどういうことだ?」
「ユーベル様は争いを嫌うのよ。だから、私たちが賭けをしているのをいうよりもああした方がいいのよ」
ガラテア(人)は悪びれた様子もなく言う。
「ちょうどいいわ。私についてきなさい。この街を案内してあげるわ。エミリオなんかよりもちゃんとね」
「な……」
「……マスター、私は気になります。彼女が父の知識を使ってどうしているかを……」
そんなふうに言われてしまったら俺に断ることなんてできはしない。気まずそうにしているエミリオに悪いが今度は彼女に案内してもらうことにするのだった。
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