168.グレイスの悩み
「どうするか……?」
エドワードさんのパーティーを終えて俺は一人自室にこもって考え事をしていた。その内容はもちろん、ガラテア(人)の提案である。
彼女のいう貴族について調べたところ、半年に一度発明品のコンテストをやっているらしい。かなり活気のあるコンテストのようなのだ。
「でもなぁ……私情でアスガルドのことを決めるのはなぁ……」
彼女の提案は正直無茶苦茶だ。だからこそ別に無視することもできる。だけど……他国の貴族に自分の発明品を見てもらえるうえに勝てばソウズィの遺物が大量に手に入るのだ。それさえあれば『異世界理解度』はあがり、もっとたくさんの発明ができるだろう。
だが、もしも負ければやつらにでかい顔をしてアスガルドの出入りを許可することになるのだ。ガラテアは良い顔はしないだろう。
「一人で考えていても答えはでないな……」
ノエルの淹れてくれ紅茶を飲み干すと俺は自室を後にする。
夜風を楽しみにながら俺が向かった先には一定のカーンカーンという音が響いている。こんな夜中だというに何か作っているようだ。
変わらないなと思いつつハンマーを叩いている人影に声をかける。
「調子はどうだ、ボーマン」
「おお、グレイスか、ちょっとまっておれ」
少しの間彼は手元の金属を叩き金属でできた山の上に建物のある模型を手に取り満足そうに頷いた。
「それは……ドゥエルか」
「おお、さすがにわかるかのう。超ミスリル合金で作った模型じゃよ。お前さんの所でアスガルドとドゥエルの貿易が始まったからのう。すこしでもドゥエルをしってもらおうとおもっての。サラの店に置いてもらうんじゃ」
楽しそうに模型を手にする彼を見て、本当に幸せそうで俺まで嬉しくなる。
「それで、どうしたんじゃ。お前さんがここに来るのはめずらしい。何か悩み事でもあるんじゃろ?」
「はは、ボーマンには勝てないな……」
親代わりの彼には表情でこちらの悩み事は筒抜けらしい。俺はガラテア(人)にいわれた勝負について話す。
「この勝負に勝てばソウズィの遺物がたくさん手に入るんだ。そうすればアスガルドはもっと発展するかもしれない。だけど、負ければ炉をあいつらに譲らなければいけなくなる。それにガラテアは嫌な思いをするだろう……」
「違うじゃろ、お前さんの本心はそうじゃない」
「え?」
いきなり否定されて間の抜けた声を上げる俺を無視してボーマンが棚にかけてあったクワを俺に差し出す。
「お前さんは自分の発明品を他人が使ってくれて喜んでくれるところをみたいんじゃよ。だから、他国の貴族のその大会とやらに出たいんじゃ。違うかのう?」
「それは……」
「わしは覚えておるぞ、初めて炉をみて目を輝かしていたお前さんを……守護者の鎖を生み出してどや顔をしておったのお前さんを……お前さんは本来は領主よりもわしらのような職人に向いているんじゃ。じゃからたまにはわがままをいってもいいんじゃないかの。もしも負けても、ソウズィの炉ならわしが代わりのものをつくってやるわい」
「いってぇ」
大きな手で背中を叩かれて思わず情けない声をあげてしまった。ああ、そうだよ……ごたごた考えたけど俺は結局アスガルドで作られた発明品を……みんなが苦労して作ってくれた品物を他の人間にも見てほしかっただけなんだ。
だって、それは俺が王城ではできなかったことで……ここでやりたかったことなのだから。
自分の気持ちがわかれば話は早い。その発明好きの貴族が欲しがりそうなものをリサーチするためにむかってみるか……その前に……
「ガラテアには許可を取らないとな。大切なお父さんのものを賭けるんだから」
「その心配は無いようじゃぞ」
ボーマンが指をさすといたずらがバレた子供のように照れ臭そうに笑っている。
「グレイス様……私の事を大事に思ってくださるのは嬉しいです。ですが、今のアスガルドの領主はあなたです。ここにあるものはお好きに使ってくださって構わないのですよ」
「だが……」
「それに私はグレイス様がわが父の遺産をうばおうとするようなやつらに発明力で負けるとは思いません。あいつらをぎゃふんと言わせてやりましょう!!」
ガラテアは最近見せなかった笑みを浮かべてどこか嬉しそうにそういうのだった。




