102.話し合うべきこと
「盗み聞きですか……ノアさんのせいで危険な目にあわせたのは謝ります。ですが、それ以外は私は謝るつもりはありません」
「はは、私たちは想像以上に嫌われていたんだな……」
いつから聞いていたのだろうか?
ベッドに横たわっていたエミリオが苦笑しながらその身をおこすと、ガラテアが警戒心を隠さずに俺とノアを守るようにして前に出る。
「わかったよ……私はもうアスガルドを出る。それでいいだろう? グレイス様にも話したいことは話した。もう用はないしな」
「そうか、じゃあ……」
無表情なガラテアと、苦々しく笑っているエミリオの表情を見比べて、俺は別れの言葉を継げようとして、ノアに服を引っ張られる。
ガラテアを思っている彼女が何かを訴えているのだ。ならばきっとなにかあるのだと思って……一つ疑問が浮かんだ。
「なあ、エミリオさん。あなたはなんでわざわざアスガルドに来たんだ? ガラテアに嫌われているのことも知っていたし、交渉するなら味方がいないここにくるんじゃなくて商人同士の会議に俺を呼ぶとかもっといろいろな方法があっただろう?」
「それは……」
「それにあなたがソウズィの墓参りをして、何かお供え物をしているのも見ています。あなたはかつて自分の先祖が作ったアスガルドを知りたかったのではないでしょうか? 見たかったのではないでしょうか? ガラテアさんを筆頭に誰かに後ろ指をさされてでも……違いますか?」
何かを言いかけたエミリオにノアが言葉を重ねると彼はうっとうめき声をあげる。その様子にガラテアが不満そうに口を開く。
「今更アスガルドに何の用があるのですか? だって、あなたたちが捨てたんじゃないですか……」
「ガラテアさん、それは違いますよ。アスガルドを捨てたのはエミリオさんの先祖です。ガラテアさんが嫌うのは否定しませんが、話し合わずに勝手に決めるのはもったいないと思うんです。私はそれで婚約者を失いましたから」
「ノア……?」
いきなりの言葉におもわず振り向くがいつものように笑みを浮かべているノアからは何を考えているかは読み取れない。
俺の疑問には一切答えずにガラテアとエミリオを交互に見つめて口を開いた。
「もう一度聞きましょう。エミリオさんはここに何をしにきたんですか? 答えによってはこのノア=カシウスが少しだけ手伝いますよ。ゴーレムに乗ってアスガルド観光ツアーとか楽しいと思いません?」
「ああ、そうだよ。私はアスガルドを知りたかったんだ一回でいいから見てみたかったんだ……母が昔話で話してくれた。かつて理想とされた街を……結果はどうあれ私にはもう足を踏むことは難しくなるから……」
「それはどういう意味だ?」
エミリアは一瞬悩んだ後にガラテアを見て……意を決したように口を開いた。
「私の姉はこのアスガルドを徹底的に攻めるつもりだ。姉が勝てばこの街はいまのアスガルドとは別物となり、負ければ敵対している私は二度と足を踏み入れることができなくなるからいまのうちにと思ってね……」
「商業連合はアスガルドと徹底的に戦うつもりなんだな……そして、あなたが俺に話したのはあなたなりの妥協案だったというところか」
エミリオは何も答えないがその表情でわかった。彼らの戦い方は物理的なものではない。おそらく商売の邪魔をして、戦うつもりだろう。
ならば俺が……アスガルドもまたその土俵で戦う必要があるだろう……
極端な話をすればヴィグナやガラテアに商業連合の本部を責めさせれば勝てるかもしれない。だが、それでは父と同じになってしまうから……
新しい戦いに備えエドワードさんと色々と話をつめなければいけないだろう。
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