エミリオとガラテア
「申し訳ありませんがずっとあなたを監視させていただいてました」
「なるほど……グレイス様の命令かな?」
無表情で背後にたたずむロボット……ガラテアと向き合ったエミリオは冷や汗が垂れていないかを確認しながら、ソレを見つめる。
先祖の言い伝えによると、ソウズィが娘のように可愛がったとあるが、要するにゴーレムと同じようなものなのだ。感情があるかはわからない。もしも感情があったとしたら……自分を捨てた先祖のことを恨んでいても無理はないと思う。
「あの方は私を道具ではなく一人の領民として扱ってくださっています。そのようなことはさせませんよ」
「領民だって……? はは、だって君はロボットだろう」
思わず驚きの声をあげるとガラテアは初めて表情を変えて笑った。だけどそれは普段グレイスたちに向けている親しみをかんじさせるようなものではなく冷笑だ。
「よかった……あなたが父と似ても似つかない人間で……私のマスターへの忠誠心は揺るぎませんが、もしもあなたが父の様に私にも愛情を感じるような人だったら、あの人は余計な気を遣うでしょうからね」
「何を言っている? まさか……」
気丈に答えつつもエミリオは舌打ちをする。どうやら自分は選択肢をあやまったようだ。人のいない場所で二人っきりというのはまずかったかと後悔する。
「勘違いしないでください。私はあなたには興味がありませんし、あなたたちがスズキの名を継ぐのも文句は言いません。ですが、グレイス様の邪魔だけはしないでください。アスガルドを捨てたあなた方に継がせるようなものはここにはないんですよ」
「ああ、そうだな、実に正論だ。だが、世界は正論だけでは動かないんだ。だからこそ、私はここに来た」
エミリオは自分の姉の言葉を思い出す。
『元々あれはわたしたちの物だったの。だから返してもらいましょう』
ソウズィの遺物を活用し、まるで伝承にあったような斬新な商品を生み出すアスガルドは商人たちの間ではすでに有名だ。
それが姉の目にとまったのだ。
そして、商機を大事にする商業連合は着々と準備を進めている。グレイスとの先ほどの会話で生半可な脅しでは動じないタイプだということはわかっている。
このあとに待っているのは商業同士の戦争だ。自分の姉はおそらく手段を選ばないだろう。だが、グレイスという人間もまた黙ってやられるタイプではないのはわかった。
ほほの傷を撫でながら思う。この後のことを考えて頭をかかえたくなる。なんとか交渉を重ねてどちらもが納得のいく終わりに導きたいとは思うが……
「あなたは何を考えているのですか?」
「私のことを君は信じてくれないだろう?」
「ええ、あなたには発明者としての気概もアスガルドのことを想う気持ちもないでしょう? 信じることはないですね」
ガラテアの言葉にエミリオは母に教わったソウズィの話を楽しんでいた昔を思い出して、心に突き刺さる。
この世界には存在しなかったアイテムを作り出した先祖様。皆が幸せに暮らすアスガルド。かつて憧れて自分もめざし……無理だとあきらめた世界だった。その理想を現実にしているグレイスに感じているのは嫉妬と羨望だった。
スキルも授かったが、発明には何にも関係のないものだった。そんな自分にアスガルドを想う権利はないのだと言い聞かせる。
「……そうだね、私にはそんなものはない。ここに来たのも姉に様子を見て来いと言われただけだ」
そういって無表情のガラテアには顔をあわせずに、そのまますれ違う。もちろんガラテアはとめないし、彼も足を止めない。
そして、そのままわかれるはずだった……本来ならば。なにか巨大なものがエミリオに飛んでこなければ……
「へ?」
間の抜けた声をあげたエミリオが見たのはなにか金属のものがとんでいくようすと、それをうけとめる人影だった。
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