93.
「おお、二人とも飲め飲め!! 今日は祝い酒じゃぞい」
完全に酔っぱらっているボーマンが俺たちにも酒を勧めてくる。基本的にボーマンは一人で酒を飲むことが多いがわざわざ俺たちを誘うというのは珍しいこともあるものだ。
やっぱり故郷が救われたのが嬉しいのだろう。
発明のこと以外でテンション高めな彼を見て、俺とヴィグナは目を合わせてうなづき合う。幸い仕事は明日からやるつもりだった。今日くらいははっちゃけても大丈夫だろう。
「仕方ないな……あんまり飲みすぎるなよ」
「グレイスこそ、調子に乗って羽目をはずしすぎないようにしなさいよ」
「ほらほら、のめのめ。あっちでもわしらの酒は飲んできたんじゃろ?」
ボーマンが床に座った俺たちに待っていましたとばかりにコップに酒を注ぐ。ドウェルでも感じたアルコールの強い香りが鼻を刺激する。
そして、上機嫌なボーマンから、留守をしている間にアスガルドでおきた色々なことを聞く。それは新しい鉱山が見つかったとか、何人もの行商人がやってきてはうちとの取引を望んでいたのでノアが対応していたとか、グレイス像に新しい機能が付いたとか様々なことだ。
え、待って……まだ、グレイス像に余計な機能付いてんの!?
くだらないことで騒いでいると、たまたま会話が途切れる。そして、ボーマンが珍しく真面目な顔で口を開く。
「アルヴィス様からの手紙でお前さんたちの活躍は知っているぞい。鉱山アリを倒してくれたらしいのう。それで……ドゥエルはどうじゃった?」
「ああ……すごい街だったよ。鉱山にあんなふうに住めるところを作るなんてな」
「それに工房もすごかったわよね。あんなに数があって、常に金属音が鳴り響いているのは驚いたわ」
「そうか……じゃが、昔はおまえさんたちの行った時よりもずっと、金属の音が鳴り響いていてな。儂も父の工房に遊びに行ってはモノづくりをしているところをみせてもらったものじゃ」
まるでかつてのドゥエルを思い出すかのようにボーマンが懐かしそうに微笑みながら語る。俺とヴィグナは酒を飲みながらそれを聞く。
「それなら大丈夫よ。私たちもサポートするし、ドウェルもまた活気を取り戻すと思うわ。ねえ、グレイス」
「……ああ、そうだな。アルヴィス様とは技術提供を約束しているし、お前が送ってくれた炉もある。今回の件で俺たちも活躍したから発言権だってある。いつかまた、元のドウェルに戻るさ」
「そうじゃのう。二人とも本当にありがとう……」
「えへへ、感謝しないよ!! というわけでかんぱーい!!」
少し酔いが回ってきたのかいつもよりもテンションが高いヴィグナが杯を掲げて俺たちもそれに続く。だが、嬉しそうにドウェルを語るボーマンを見て俺は少し胸騒ぎがしていた。
「ねえ……グレイス……膝枕して」
「お前……酔いすぎだろ?」
「もう、彼女のおねだりくらい聞きなさいよ」
しばらくどんちゃん騒ぎしていて、完全に酔っぱらったヴィグナが甘えてくる。親代わりともいえるボーマンの前で恥ずかしいので抵抗してたが圧倒的な腕力で強引に膝枕をさせられてしまった。
やはり暴力!! 暴力はすべてを解決する。
そんな俺たちをボーマンはほほえましいものでもみるかのように、ニヤニヤわらって酒を飲んでいた。
「なんか言いたそうだな……」
「そりゃあそうじゃよ。儂はずっとヴィグナの気持ちを知っておったからな。お前さんたちが仲が良いのが嬉しんじゃ」
「まあ、お前が俺たちの親みたいなもんだからな……」
「ほう、うれしいこと言ってくれるのう」
酔いのせいか、俺も口が軽くなってきたのだろう。ついはずかしいことが口に出てしまう。いや、酔いのせいにしたいだけなんだけどな。
「それでさ……ボーマンはドウェルに戻りたいとか思っているのか? 平和になったドウェルにさ……」
「……」
ボーマンが息をのむのがわかった。出発する前とはすでに状況は変わっている。鉱山アリの危機は消え去って、ドワーフも何人か移り住むことになった。だから、万が一……彼がいなくてもアスガルドはまわるようになってしまったのだ。
だから、彼がもし、故郷に帰りたいと言ったら俺は……
そんなことを思っていると何かが頭に置かれるのがわかった。この感触を俺は知っている。ボーマンの大きな手だ。いつも何かを作ってくれ、色々と教えてくれていた偉大な手だ。
「何を言っておるんじゃ。子供を置いてでていく親はおらんよ。逆はあってもな。それに……一日三回までの爆発をゆるしてくるなんてここだけじゃからな」
「もう、俺はガキじゃないっての」
気恥ずかしさを隠すように乱暴な声で答える。そして、実感する。俺にとってアスガルドは故郷であり、ヴィグナやボーマン、ガラテアたち家族や領民と作った大切な場所なのだと。そして、彼らにとってもそうだんだと……
エドワードは目の前の来客に緊張を隠しながら、紅茶を口にする。いつか来るとは思っていたがこんなにも早かったとは……
「それで……我々商業連盟にアスガルドの領主『グレイス=ヴァーミリオン』様を紹介していただけますか?」
目の前の青年は……20歳くらいの身なりの良いこの国では珍しい黒髪に黒目の青年は余裕に満ちた目でそういった。
「大変申し訳ありませんが、まずはグレイス様の許可がないと……」
「許可ですか……? 勝手にソウズィの……わが先祖である宗次の後継者を名乗っている人間に許可が必要だと?」
煮え切らないエドワードの言葉に、目の前の青年の目がスーッと鋭くなる。そのプレッシャーにおされそうになるがエドワードも百戦錬磨の商人である。
かろうじで見つめ返すと青年は大げさにため息をついた。
「まあ、いいでしょう。それならば勝手に行くだけですから」
青年はアスガルドの方を険しい顔で見つめるのだった。




