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90.

 少し時間が戻って、ドウェルが祝勝モードの宴の中、病室にて一人の人影がやってきた。彼はアスガルドの人間ではない。

 元々鉱山アリにのみ警戒をしていたことや、負傷したゲオルグの兵士たちも何人か治療していたため、部外者の侵入は難しいことではなかったのだ。

 そして、人影はベッドの前に行くと剣を抜いて……



「氷の蔓よ、わが敵を拘束せよ」

「なっ!!」



 抜かれた剣を中心に一瞬にて、人影の腕が凍り付く。いきなりのことに悲鳴を上げる人影に、身を潜めていたカイルが皮肉気な笑みを浮かべた。



「おいおい、お見舞いにしては物騒じゃないかな? 君らはゲオルグの手のものだね。僕にいったい何の用かなぁ?」

「くっ……いつの間に……」

「僕が聞いているんだ。答えてよ」



 その一言で人影の……ゲオルグの兵士の体が徐々に凍てついていく。それでも悲鳴を上げないのはさすがだろうか。



「くっ……さすがは魔聖か……お前が目を覚ます前に侵入できなかった時点で私の負けということか……」

「へぇー、素直だね。それにしてもゲオルグ兄さんがこんなことをするとは思わなかったな……多分君たちの独断でしょ」

「ああ、そうだ。あの方はお前とグレイス王子が手を組んでも負けはしないだろうが、苦戦はするだろうからな。だから、我々で先手を打っておいたのだ」

「ふぅーん、そこまでしゃべるってことは何らかの手があるってことかな?」



 カイルの言葉にゲオルグの兵士がにやりと笑う。そして、その表情を見て、カイルは自分の勘が当たったことを理解し舌打ちする。



「ああ、お前がかわいがっていたメイドのそばに刺客がいる。お前がグレイス王子に手を貸せば即座に手を下さすだろう」

「僕がたかがメイドのために、考えを変えるとでも?」

「……それは……?」



 興味なさそうなカイルにゲオルグの兵士が一瞬動揺する。だが……



 いやぁ……このまま殺してもいいけど。さすがにティアを引き合いに出されたらダメだなぁ……



 今頃幸せな生活をしているであろう初恋の女性の笑顔を思い出して、苦笑する。

 本来ならば彼女のそばには常に手のものを護衛に潜ませていたのだが、王都ではカイルは死んだことになっている。彼の派閥の人間もそれぞれの道を歩んでいるのだろう。

 カイルは内心苦笑しながら、兵士にかたりかける。



「まあ、いいや、君たちの条件は一体何なのかな?」

「グレイスとはこれ以上関わらず我らが国から出て行ってくれ。あなたの血はゲオルグ様の覇道のさまたげになる」

「まあ、そんなところだよねぇ……」



 ここで命まで奪おうとしないのは、いくらティアの命がかかっているとはいえ、カイルが自分の命までは捨てないだろうという読みだろう。

 そして、見逃す代わりに一生故郷には戻って来るなということだ。そして、このドゥエルにいることもできないだろう。ここはすでにヴァーミリオンの属国なのだ。



「まあ、ルビーももう大丈夫そうだしね……」



 ぼろぼろの自分を拾って治療してくれた心優しきドワーフの姫君を思い出して、寂しさに襲われる。だが、ここでカイルが余計なことをすれば彼女たちに面倒なことがおきるのは想像にたやすい。ドゥエルの人の王はゲオルグにべったりだからである。



「わかった……その条件を飲んであげるよ。その代わりに……約束を破ったらどうなるかわかっているよね」

「あ、ああ……もちろんだ」



 その言葉を聞いてからカイルは魔法を解いて、兵士を開放する。そして、ドラゴンライダーの冒険者から預かっていた手紙をベッドの上においておく。

 



「じゃあね、グレイス……お前の見つけた道がどうなるか、遠くでみておいてやるよ」



 そうして、彼は窓から飛び降りていく。崖の上から飛び降りる形になるがが魔聖の彼にとっては無事におりることはたやすかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] カイル… まあ、今の彼ならどこででもやっていけそうな感はあるかな、うん。 [一言] これが後に大陸を席巻したメイド教の幕開けである(おいっ) とりあえず各地で活躍しつつ布教活動にいそしむ…
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