83.カイル=ヴァーミリオン
圧倒的な物量の氷魔法が鉱山アリを包みこむ。しかし、中ですさまじい力でうごめいておりその氷には即座にひびが入る。
「はは、不細工な氷像だねぇ。そら、今度は火だるまだ!!」
鉱山アリが氷を打ち破る絶妙なタイミングで巨大な火の玉が鉱山アリを包み込む。カイルはおどけた口調で鉱山アリを煽っているが彼には余裕なんてなかった。
さきほどからずっと魔法を使い続けている上に、同じ魔法は通じないときたものだ。だからこそ、微妙に違う種類の魔法を同時に使って微妙にその性質を変えているのである。『魔聖』である彼でも流石に疲労の色は隠せない、
「なあ、グレイス……お前だったらこういう時はどうする? ヴィグナと愛の力でなんとかしちゃうかな? それとも不思議なゴーレムちゃんの力で何とかしちゃうかな?」
今は女王アリを倒すために奥へと向かっている弟のことを思い出して自虐的に笑う。アスガルドで再会した彼のチートともいえる発明品を手にしたグレイスをずるいなんて思ってはいない。
お前は一生懸命頑張って力を得たんだもんな……
弱かったころのあいつを馬鹿にしたことは失敗だったは思う。だけど、間違ってはいないと思う。あの時のあいつは弱かった。だから自分の意見を通すだけの力がなかったのだ。
「お前はさ……僕らが間違っているっていうけどさ、弱いものに道を示すってやり方も力を得たからできるるんだぜ? なあ、そうだろ。ティア」
力がなかったことのころを思い出して、カイルは自虐的に笑う。それは彼が『魔聖』になる前の話である。
兄であるゲオルグに比べて貧弱で、幼い時から難しい本を読むグレイスに比べて特に秀でたことのないカイルの扱いは微妙だった。
そんな彼をずっと支えてくれていたのは彼の乳母の娘であり一つ年上のメイドのティアだった。彼女だけは自分が泣いたり弱音を吐いても優しくしてくれたのだ。
そのたびに思ったのだ……
メイドっていいな!!
それは性癖の発露であり初恋だったのだろう。彼女にほめてもらうためだけに、少しだけ才能がある魔法という力を極めようと必死になったものだ。そして、彼は『魔聖』となってその地位を確立することになる。
力を得たカイルはまず一番にティアに報告した。
「なあ、ティア!! 僕も王位継承者として認められたぞ!! 僕が王になったら結婚してくれ!!」
「カイル様おめでとうございます。ですが、あなたにはもっとふさわしい方がいますよ。その代わり私はあなたをメイドとして支えさせてください」
その言葉の通り、使用人と王族の恋なんか認められるはずもなく、カイルには婚約者候補を何人もあてがわれてしまった。そして、そのことをティアはわかっていたのだろう。『魔聖』となってからは距離ができてしまった。
だから、父に我儘を言えるくらい強くなったら迎えに行こうと思ったのだ。だが、それは叶わない。
カイルの取り巻きの貴族が余計な気をまわして、ティアに適当な地方貴族を紹介して、婚姻を結ばせたのである。それは貴族として正しい行動だった。
王族の妻は上流階級の貴族こそがふさわしいのだから……
「もっと早く力を得てれば僕の人生も変わっていたのかな?」
結婚式に呼ばれ、幸せそうに微笑むティアに表向きは祝福しながら三日三晩泣いて吐いて過ごしたのを覚えている。そして、そのあとに思ったのだ。
もっと力があれば……もっと早く我儘を言えるくらい強くなっていれば変われたのだろうか?
「違うよね……それじゃあ、結局僕の父の力による支配と一緒だ……奪うんじゃなくて、誰かに与える力か……」
もちろんカイルが本気になればティアを奪うこともできた。だけど、幸せそうな彼女の笑顔をくもらせることはしたくなかった。
カイルが我儘を言えるようになったのは力を得たからだ。だから、がんばって力を得たものは幸せになるようにサポートをしてやった。魔法の才能があったら身分の低い貴族だって取り立てたし、色々と便宜もはかった。
だけど、それじゃあ救えない人間だっていたのだ。例えばティアのような優しいだけの人間はカイルの世界では救えないだろう。
だが、グレイスのように皆に親しく発明という力を与えればティアのような弱者だって救われる。少なくともチャンスはある。
「僕の力とグレイスの力があればこの世界は変えれるかな? なんてね……」
「ーーー!!」
火だるまになった鉱山アリが接近してくるタイミングで地面に穴があいて、そのまま飲み込んでいく。だが、それは知っているとばかりに即座に壁をけって這いあがってくる鉱山アリ。
「そろそろネタ切れなんだけどな!!」
いまだ元気よく飛び上がる鉱山アリにとっておきの氷と火の魔法を放つ。爆発同時に、びしりと鉱山アリの体にひびが入る。
それを見てにやりと笑う。
金属疲労という現象がある。カイルは鉱山アリに極度に温度差のある魔法に腐食属性のある土魔法を与えひたすらダメージを与えていたのである。
そして、これは偶然ではない。
ドゥエルに保護されて思っていたのだ。もしかしたら、救援に来るであろうゲオルグが、ドワーフたちに危害を与えるのではないか? そして、そいつらは超ミスリル合金を持っている可能性があると……
そのため金属に詳しいドワーフから色々と聞き出していたのである。
「安心してくれよ。ルビー……君の愛したこのドゥエルは僕がまも……」
連続で魔法を使い続けていたためか一瞬ふらついたその隙を逃す鉱山アリではなかった。するどい腕がカイルの右胸を貫き、激痛がカイルを襲う。
「これはやばいな……」
だけど、遠のく意識の中蒸気自動車が戻ってくるのを見て、カイルは勝利を確信した。
カイル君の死亡フラグが……
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『処刑フラグ満載の嫌われ皇子のやりなおし~ギロチン刑に処され死に戻った俺ですが、死にたくないので民に善行を尽くしていたらなぜか慕われすぎて、いつのまにか世界を統べる王になっていました~』
https://book1.adouzi.eu.org/n6294id/
ギロチン刑に処されタイムリープした皇子が、処刑から逃れるために周りに優しくして言ったら、なぜか皆に理想の王とあがめられるようになる勘違いものです。
現在ハイファンランキング3位でして、なんとか2位になりたくて頑張ってます。よろしくお願いします。
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『追放された俺のチンコなら世界を救えるかもしれない~魔王も倒せるってマジで言ってんの?』
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幼馴染の聖女にチンコを追放された主人公の話です。コメディ全開なので笑っていただけたら幸いです。




