76.女王アリ
すさまじい音を立てながらやってきたのは、二体の鉱山アリだった。一体は背中に羽が生えた鉱山アリで、もう一体は通常の鉱山アリの何倍もの体の大きさを持っており、その下半身はまるで風船の膨れている異質な鉱山アリだった。
巨大なアリは卵を見てから、安心したように息を吐くと、周囲をぎょろっと見回している。
「大丈夫ですか、マスター、ヴィグナ様」
「ああ、なんとかな……」
「ちょっとグレイス、変なところ触らないでよ」
俺達は咄嗟に飛び上がったガラテアによって抱きかかえられて、天井にあったくぼみに身をひそめて二体の動向を探る。
「おそらく、あの羽があるやつが伝令用のアリだ。素早く動いて、女王の意思をほかのアリに伝えるんだ。あいつはヴィグナが、女王アリはガラテアが倒してくれるか。俺は……ここで援護射撃をしているよ」
俺は少し悔しい想いを抱きながら、二人に指示をする。わかっていたが戦闘となれば彼女たちに頼らねばならいのはつらいものだ。
俺が正面からいっても足を引っ張るだけだしな。
「安心してください。こういうのは私たちの仕事ですから」
「そうよ、そのかわりあんたは私たちに色々と指示をしているんだから。頼りにしているのよ」
「……ありがとう」
顔に出ていたのだろうへこんでいる俺を二人は優しくフォローしてくれる。そして、二匹のアリが俺たちに背を向けた瞬間にヴィグナ達はくぼみから飛び降りる。
「私が分断させます、伝令アリはお願いします」
「任せて、こうすれば、空は飛べないでしょう!!」
ヴィグナの魔法銃剣が伝令アリの羽を貫いて、ガラテアの蹴りが女王アリの巨体を蹴り飛ばす。いつもの必勝パターンである。
そして、そのままヴィグナが悶えている伝令アリに斬りかかり、あっさりと倒す。女王アリの方はと思うと……
「ガラテア!!」
反撃とばかりにそのでかい腕をにたたきつけられるガラテアをサポートするように俺が魔法銃剣を放つが、女王アリはわずかに体を逸らして、急所を外す。
その瞳にはたしかな理性が宿っているのがわかり……怒ったかのように甲高い音を上げてこちらに岩をなげてきやがった。
「ーーーーーー!!!」
「うおおおおお」
「大丈夫!?」
慌てて飛び降りた俺をヴィグナがお姫様抱っこをして受け止めてくれる。普通逆じゃない? などと言っている場合ではない。
「ガラテア、大丈夫か!!」
「マスター……あの敵はかなり厄介です。私の攻撃が通じません」
吹き飛ばされたガラテアが珍しく焦った声をあげる。それは初めてのことだった。ドラゴンとの戦いも、カイルたちとの戦争だっていつでもガラテアは敵を圧倒的な力で倒していた。
その彼女がそんなことを言うなんて……
女王アリを観察していると全身がミスリルのような皮で覆われており、柔らかい体が衝撃を逃がす役割をしているのだろう。確かに打撃メインのガラテアとは相性は悪そうだ。
「鉱物アリから大量のミスリルを貢いでもらっているんだ。そりゃあ、体はさぞ硬いだろうよ。だけど、急所は一緒だ。何とか倒すぞ!!」
俺は二人に激励の声をあげる。女王アリの厄介さはそれだけではない。瞳に写る確かな理性がやっかいだ。こいつは意地でも急所を避けようとするだろう。
それに先ほどの叫びを聞いたことによってほかの鉱山アリどもたちがくるかもしれない。そう考えていると、早速足音が聞こえてきた。
挟み撃ちかよ!!
そう思って振り返った俺は予想外の再会をすることになる。
「お前ら先陣は私が率いるといったはずだが……なんだ、グレイスか」
「ゲオルグ……? もう、鉱山アリどもを倒したのかよ」
鉱山アリたちの返り血で鎧を汚したゲオルグとその部下たちが立っていた。




