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2-12 話し合い






 激動の朝を終えて、昼休み。

 パンの購買戦争に駆り出される前の小倉くんに、僕は一言告げる。


「ごめん、今日ちょっと用事があるんだ」


「また幼馴染か?」


 すべてお見通しだと言わんばかりの小倉くん。


「ああ、うん」


 僕は申し訳なさそうにうなずく。


「だー、気にすんな。俺、鈴木達のところで食うからさ」


「ごめん」


「いいって」


「じゃあ、行くから」


「あー、ゆっくりしてこいよ。夫婦なんだからな」


「だから、そういうのじゃないって」


 小倉くんから変な冷やかしを貰いながらも、僕は喧騒に満ちた教室を抜ける。

 廊下に出ると、人はまばらだ。

 僕は綾が教室の前で待っていないか探す。


「あ、いた」


 すぐさま綾を見つけて、駆け寄って行く。


「綾」


「あ、春。それでどうしたの? メールで大事な話があるって。あれ? 直は?」


「それは全部後で話すよ。とりあえず屋上に行こう」


「ど、どういうこと?」


 綾は顔を青くしたり赤くしたりと忙しかったので、僕は簡潔に告げることにする。


「昨日の秘密の遊戯のこと」


「え?」


「問題が発生したんだ」


「そうなんだ」


 綾が悲しそうな顔をする。


「とにかく屋上で話し合い」 


 僕は綾の手を引いて、屋上へ向かう。

 上へと繋がる階段を上り、屋上のドアを開ける。

 

 朝は曇りだった空には、太陽が燦々と輝いている。

 人はいないことはなかったけど、穴場スポットだけあってそんなに多くない。

 

 僕達は青いベンチの上に腰かけて座る。

 トートバックから直が作ってくれた弁当を取り出し、膝の上にそれを広げる。


「綾。今日の朝さ、大変だったんだ」


 僕は慎重すぎるほど慎重に切りだす。


「何があったの?」


 と、綾が聞く。


「小平さんにここへ連れられて、ひとめぼれしたって言われたんだよ」


「え?」


 やはりと言うべきか驚いている。

 綾のあどけない顔は疑問でいっぱいだ。


「僕の隣にいた男の子にね」


 綾は理解が追いついてない。

 目をぱちくりしている。


「つまり、綾のことなんだ」


「私?」


「そう」


「それって、真由が私の男の子の姿に一目ぼれしたってこと?」


「厳密に言えばそうなるね」


「……」


 綾は絶句している。

 そんなことがあってもいいのかという表情だ。


「どうりで今日の真由は様子がおかしかったんだ」


「そうだったの?」


「うん」


 綾が深々とうなずく。


「それで問題はここからなんだけど、小平さんは、その男の子が僕の知り合いなんだから会わせてほしいって言い張るんだ」


「え?」


 綾はさらに驚く。

 ついでに頭を抱えてしまっている。


「そんな。どうすればいいの?」


「僕にはわからないよ」


「私だってわからない」


 二人して頭を悩ます。

 まったくもってどうすればいいかわからない。

 なので、建設的な意見が出ることもなく、時間だけが流れていく。


「とりあえず、ごまかしてやり過ごすしかないな」


「うん。罪悪感はあるけどそうするしかないよ」


「それに小平さんだって良心があるはずだから、綾以外に僕が女装している姿を言いふらすことはないとは思うんだ。まあ、恋は盲目だっていうからわからないけどさ」


「そこは大丈夫。真由だから」


 曲がりなりにも綾の親友。

 それくらいは信頼してもいいだろう。


「でもね、春。真由のことだから、春は相当困ったことになるかもしれない」


 綾の話では小平さんは恋に相当アグレッシブな人らしい。

 まあ、今朝の詰め寄り方を見てもそれはわかる。

 尋常じゃないほどの詰め寄り方だった。


「だからね、しばらくは真由につきまとわれると思う」


「僕が小平さんにつきまとわれるって?」


「うん。そうなると思う」 


 綾が神妙な顔をして言ってくる。


「そっか」


 こうして僕は新たな問題に頭を悩ませる。






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