2-5 日常の責務
帰宅した後、直と僕はのんべんだらりとくつろぐ。
久しぶりの学校もあってか、少し疲れがたまっていたみたいだ。それと風邪の影響も少しは残っていたのかもしれない。
なので、何をするわけでもなくぼんやりと時間を費やす。
しかしそうして一時間ほど過ごし、直が夕食作りに取り掛かろうとした時に問題が発生する。
「春、足りない」
「え?」
「冷蔵庫の中身」
冷蔵庫をのぞき込んだ直が、ぽつりとつぶやく。
「あ、そっか」
「うん」
「買い物してないわけだ」
「そう」
そうだった、と嘆息する。
僕達は日常の責務をすっかり忘れていて、土日を挟んでここ四日間、買い出しをまったくしていなかったのだ。
ということは、冷蔵庫の中身も少なくなるのが当たり前。
僕は直に提案する。
「直」
「ん?」
「今からさ、いつものスーパーで買い物をしてくるよ」
「私も行く」
「でも直、僕、自転車使ってみようと思うんだけど」
自転車というのは、美咲さんがラッタッタを乗ることになり譲り受けた代物。
坂本家が譲り受けてからまだ使う場面がなく、折角だからこの機会に使ってみようと思いたったのだ。
「それでも行く」
「え?」
僕は驚く。
「もしかして二人乗り?」
「二人乗り」
たしかあの自転車は二人乗りができるはず。
けど、直は自転車があまり好きではない。
「それでいいの、直?」
「いい」
こうして僕達は、自転車でスーパーに向かうこととなる。
家を出て、直を自転車の後ろに乗せる。
直はゆっくりと自転車に跨がったが、座り方に安定性がない。
「そんな座り方で大丈夫?」
「大丈夫じゃないみたい」
「だったら横向きで座らないで、僕と同じ向きに座って」
「ん」
直が座り直す。
「春、ぎゅーってしていい」
「ぎゅーって何?」
「ぎゅーはぎゅー」
二回目でなんとなく意味は理解できた。
「いいけどさ、直。運転に支障が出ない程度でお願い」
一応、わかっていると思うけど、僕は忠告する。
「わかった」
直が納得し、いよいよペダルを漕ぎだす。
思えば、自転車に乗ることは本当に久しぶりになる。
「さて、出発だ」
「オー」
けど、颯爽と出発しようとした所で、すぐにその計画は頓挫する。
「上り坂」
「ほんとだ」
「進まない」
直が不満そうに口をとがらす。
要するに、気勢をそがれた格好だ。
それでも上り坂を通りすぎたところで、もう一度自転車に乗り直す。
そしてそのまましばらく進んでいると、だんだんと気分が高揚してきて歌も飛び出してくる。
結局、僕達はデュエットしながらスーパーへと向かった。




