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2-4 綾の責務






 放課後、直と一緒に昇降口の前まで行くと、綾が待っていた。

 綾は下駄箱の所で寄りかかっていて、僕達を見つけると駆け寄ってくる。


「春、直、待ってた」


「綾」


 僕は綾に言う。


「待っているならメールしてくれればいいのに。今日も僕達が休みだったらどうするつもりだったの?」


「いいの、春。なんか文句ある?」


「ないよ。べつに」


 綾の剣幕に押された僕はそう答える。


「なんとなくそういう手段を使わないで待っていたい気分だったの」


「なんとなく?」


 直が疑問に思ったのか聞く。


「うん。なんとなくね」


 校門を出て、きれいだったイチョウ並木の通りを歩く。

 基本的に学校の前は桜の木であることが多いけど、ここはイチョウの木。

 しかも、ここの街のイチョウは特殊で、早く色づき早く枯れてしまうという特色があった。


「このイチョウの葉もすっかり枯れちゃったね」


 綾が残念そうにつぶやく。


「うん」


 僕はうなずく。


「もう十一月になるから」


 直もぽつりと一言。


「そっか。もう少しで十一月だよ、春、直」


「十一月か」


 しみじみとつぶやく僕。


「中学生でいられるのも、後、四か月ちょっとしかないのね」


「たしかに」


 僕達はへんな感慨に浸る。

 けど、その空気を打破したくて、僕は口を開く。


「でもさ、綾。その前にハロウィンがあるよ。十月の最後の日に」


「ハロウィンか。家では関係ないかな」


「あんな西洋みたいな家なのに」


「うん。ハロウィンって日本では一般的じゃないから。そんなことしている暇あったら、企業同士のパーティになっちゃうよ」


 企業同士のパーティ。

 その言葉で、綾のお嬢様としての一面を垣間見た気がする。


「じゃあ、その日、東風荘に来る?」


 そう言ってから、僕は迂闊だったなと反省する。

 綾はお嬢様の責務をこなすために色々と忙しい。

 

 なので、たぶん返事は否だ。

 案の定、綾の返事は厳しかった。


「誘ってくれて嬉しいけど、たぶんいけないと思う」


「そっか」


「ごめん」


「こっちこそ」


 綾と僕の空気がさらに湿っぽくなっていく中、今まで黙っていた直が言う。


「綾」


「何? 直」


「綾の都合がいい時に三人だけでしよう」


「え?」


「ハロウィン」


 綾の顔が喜びに変わっていく。


「そうだ。そうすれば良かったんだよ」


 僕も声を上げる。

 結局、僕達はハロウィンには何をするべきかの相談となる。

 建設的な意見は出なかったけど、話をしているだけで楽しい。


 やがて、月極駐車場と都立公園の入り口があるいつもの交差点に差し掛かる。

 ここで綾とお別れ。

 綾はここからバスに乗って帰る。


「じゃあね、春、直」


 綾は手を振って去っていく。

 そして次の曲がり角の所ですぐに見えなくなってしまった。


「直、帰ろっか」


「ん」


 直の返事を聞いて、僕達は東風荘に向かって歩み出す。






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