2-3 文学少女
それから僕達はすぐに図書室へ着き、中に入る。
めったに訪れない場所もあってか、僕は辺りを見回す。
ここの図書室はこぢんまりとしたアットホームな雰囲気。蔵書はそんなに多くないけれど、しっかりと新書は押さえていると聞く。
カウンター席の方を見ると、そこには吉田さんがいる。
僕は絵里ちゃんと別れ、吉田さんのところへ向かう。
「吉田さん」
本を呼んでいる吉田さんに声をかける。
すると吉田さんが、びくっと小動物みたいに驚く。
「ごめん、驚かせちゃって」
「ううん」
首を振る吉田さん。
大和撫子な吉田さんの容姿に合うあまそぎの髪型が、右に左にと揺れる。
「ノート、ありがとう」
お礼を言いつつも、ノートの束を返す。
「い、いえ。どういたしまして」
「おかげでだいぶ助かったよ」
「そうなの?」
「うん」
「良かったぁ」
「本当にありがとう」
僕は心からお礼を述べる。
前、授業中に数学のノートを見せてもらった時と同じように、吉田さんのノートは丁寧でわかりやすかった。
写している時も、要点が頭の中で整理されていく感じだ。
「あのさ」
「ん?」
「お礼、こんなのだけど」
ポケットから缶コーヒーを取り出す。
「あ、ありがと」
吉田さんがうやうやしく受け取り、その格好がまた仰々しくて笑みがこぼれる。
「そんなかしこまらなくていいよ」
「で、でも、坂本くんに貰ったものだから」
吉田さんは胸の前で大事そうに缶コーヒーを抱える。
「後、のど飴も効果あった」
「ほんと?」
「うん」
吉田さんから貰ったのど飴は、昔懐かしいハッカの味がした。
幼い頃、綾の姉の翠さんによく貰った代物だ。
「あの味、昔よく舐めたんだ」
「私も。それで急に思いだして欲しくなって」
吉田さんもしみじみと言う。
「そっか」
「うん」
そして僕達は、図書室にいるせいか本の話題となる。
「あの、坂本くんは本を読む?」
「あ、一応」
ただし、美咲さんに強制されて官能小説を読んでいるなんてとても言えない。
口が裂けても絶対にである。
「でも、流行りの推理小説くらいかな」
と、僕は言う。
「推理小説かぁ。私はファンタジー。それでね、坂本くん」
吉田さんが嬉々として話しかけてくる。
最初に話しかけた時にあった緊張も取れてきたみたいだ。
見れば文学少女然とした吉田さん。
見た目はとても細くて小柄で、本が好きな感じがにじみ出ている。
「あ、あのね、坂本くん」
「何?」
「わ、私、坂本くんともっと本の話をしたいなと思って」
「僕と?」
「う、うん」
「いいけど、どれから読めばいいかわからないんだ」
「じゃあこれ。貸すから読んでほしいな」
「ほんと?」
「うん」
吉田さんから本を受け取る。
渡されたのは魔法の世界に迷い込むファンタジー小説。
僕一人だったら、おそらく選ばないであろうジャンルだ。
けど、これを機会に試し読みしてみるのもいいのかもしれない。
「これ、読んでみるね」
「ありがと」
「いや、礼を言われるのはこっちだよ」
「それもそっか」
吉田さんはえへへと笑う。




