2-2 図書室へ
昼休み。
ノートを全て写し終えた僕は、図書室へと向かう。
理由は図書委員でもある吉田さんに、感謝の意をいち早く伝えるため。
図書室は三年の教室から近く、すぐにでもいける。
「小倉くん。じゃあ、ちょっと図書室に行ってくるよ」
「図書室? 珍しいな」
「まあね。ちょっと用事があるんだ」
「これか」
小指を差し向けてくる小倉くん。
「違うって」
と、僕はやんわり否定する。
「じゃあ、俺、鈴木達のところ行くわ」
「そうしてくれると助かるよ」
「おう」
僕は席を立ち、教室を出る。
図書室へと続く廊下を曲がったところで絵里ちゃんと出くわす。
「あ、先輩」
「絵里ちゃん」
絵里ちゃんは、前会った時とかわらない笑顔を僕に向けてくれる。
先日、僕は絵里ちゃんに酷いことをした。愛想を尽かされても仕方がないことを平気で行ったのにだ。
「こんなところで会うなんてめずらしいですね」
「そうだね」
絵里ちゃんは何冊かの本を抱えている。
きっと図書室にいくのだろう。
「先輩も図書室ですか?」
「うん、そうだよ」
「私もです。私、調べ物をする時、学校の図書室を良く利用するんですよ。って誰でもそうですね。あははっ」
なんだか空回り気味の絵里ちゃんが、大きな笑い声をあげる。
おかげで僕も、一緒になって笑えた。
「あ、それよりも先輩、風邪は治りましたか」
「風邪?」
「はい」
「もう少しで完治するかな」
「そうですか。ということはまだ完治していないんですね?」
「そうだけど」
僕はやけに張り切る絵里ちゃんを不思議そうに見てうなずく。
「ならばここはあれですね。先輩、私の風邪の治し方講座を聞きますか?」
「え?」
「聞くっていってください?」
「じゃあ、聞かないよ」
きらきらと輝く絵里ちゃんの無垢な視線。
それを見て、僕はなんだか意地悪したくなってくる。
つい先ほど、申し訳ないと思ったばかりなのにどうしてこう思うのか。
僕は自分の心がわからない。
「がーん」
絵里ちゃんはサイドにくくった髪を触りながら打ちひしがれる。
それを横目で見て、僕はほくそ笑んだ。
「先輩はあれですね」
「あれ?」
「一回デートしたら、もう私のことなんて用無しみたいな扱いにするんですね。私はモブキャラですか?」
よよよ、と泣き真似をする絵里ちゃん。
そんな時、僕はぽつりとつぶやく。
「デート」
その言葉には美咲さんのせいでいい思い出はなかった。
けど、今は絵里ちゃんとの楽しかった記憶が蘇る。
「絵里ちゃん」
真剣な目で絵里ちゃんを見つめる。
「な、なんですか先輩」
絵里ちゃんが僕の勢いに驚いたのか、一歩後ずさる。
「もう一回だけ秘密のデートをしよう。この前のやり直しの意味合いも込めてさ」
「せ、先輩からそんなこと言ってくれるなんて」
なんだか感極まっている絵里ちゃん。
しかも、小声でなにかぶつぶつ言っている。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないですよ」
「そう、ならいいんだけど」
「気にしないでくださいね、先輩」
「あ、うん」
「それとデートの件については頼りにしていますからね」
ポンと僕の背中を叩く絵里ちゃんがいた。




