1-23 再び風邪
「あれ、声が、がらがらに、なって聞こえるよ」
腹話術の真似をしてみても、特に何の意味もない。
ただ単に声がおかしいだけだ。
「春、風邪」
「直」
直にジト目を向けてみる。
「ん、ごめん」
「まあ、しょうがないか」
翌朝、僕は直に促されてもなかなか起きれないでいた。
なんかおかしいと感じつつも立ち上がろうとしたけど、まったく立てない。
そしてその時にようやく気がつく。
体がふらふらしていたのだ。
「今度は僕の番なわけだ」
「ん」
「くしゅん」
そしてくしゃみ。
直は僕のところまで来て、ティッシュを持ってくる。
「チーして」
「チー」
「もう一回」
「チー」
これを何回か繰り返す。
けど、あまり効果はない。
くずかごがテイッシュでいっぱいになっただけだ。
「くしゅん。げほげほっ」
今度は咳まで出始めた。
「春」
「ん?」
「体温計」
「どうも」
直が体温計を渡してくる。
熱を測ってみると三十八度もあった。
一昨日の直よりは低いけど、朝の体温としては高すぎるほど高い。
「えっと、すごい微熱?」
「そこでボケを重ねない」
「先に言った直が言うセリフじゃないからさ、それ。後、昨日のはボケだったわけ?」
不満と疑問をぶつけるけど、直はあっさりと受け流す。
「私、学校に連絡する」
「ということは、今日も休みか」
「ん」
「で、直はどうすんの?」
「行くもんか。春の看病と暇つぶしに相手になるさ」
直は昨日の僕の真似をして言う。
「そっか」
「うん」
「まあ、でも心強いよ。ありがとう」
「どういたしまして」
こうして直と僕は二日続けて学校を休むこととなる。
「二日連続だね」
「しょうがないよ」
と言いつつも、切り替えて家事に雑務に勤しむ直。
直は完全に回復したらしく、僕の献身的に看病をしてくれる。
おかげで、僕の風邪も午後には快方に向かう。
「お昼はおかゆ」
「うん」
「で、夜は春の好きなもの」
「わかった」
宣言通り、昼はおかゆ、夜は僕の好きなぶりの煮付けを作ってくれる。
味はいつもの直と変わらなかったけど、風邪をひいていたせいか嬉しさでいっぱいになった。
「はい。体温計」
「どうも」
そして寝る前、最後に熱を測る。
「三十七度二分だ」
「ほんと?」
直が驚きながらも聞いてくる。。
「うん、ほんと」
「熱、だいぶ下がった」
「そうみたい」
直の風邪の傾向からいっても、このまま治りそうだ。
「明日は学校いけるといいね」
「そうだね、直」
直は僕の隣に自分の布団を敷く。
心なしかいつもより近い。
「春。また私にうつせばいい。そうすれば早く治る」
「そんなことしたらずっと風邪のぶりかえしじゃないか」
「冗談」
「そんな冗談よくない」
「ん。たしかに」
直がシーツのすそを足で伸ばすいつもの癖をする。
「おやすみ、春」
「おやすみ、直」
電気を消して、就寝に備える。




