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1-22 メール





 スケッチを終えた後、直は昼まで睡眠を取る。どうやら順調に回復しているようで、昼ご飯も何の問題なく食べてくれた。

 午後は家事や雑務などをこなしながらも、二人でまったりと過ごす。


 話題は迫りつつある東風荘主催のハロウィンパーティのこと。

 直も僕もその日が来るのを楽しみにしている。

 そうして時刻は三時を回り、一息ついたところで携帯を見る。


「あ」


「どうしたの? 春」


 すっかり調子が良くなった直は、布団を畳んで服に着替えている。


「結構メールが来てたからさ」


 小倉くん、鈴木くん、綾、そして絵里ちゃん。

 小倉くんからは二人が休みだと聞いて思わず脱ぎそうになったとの報告。意味がわからないが、つっこまないようにしておく。 


 鈴木くんと綾からは普通のメール。

 この二人には無難なメールを返す。


「で、絵里ちゃんか」


 絵里ちゃんとは、あの日に僕が失礼なことをして以来のメールのやり取りだ。

 文面は過剰すぎるほどこっちを気遣ってくれている内容で、ずる休みの僕は申し訳なくなってくる。

 結局、直が風邪であることを伝え、心配はいらないと絵里ちゃんにメールを返す。


「あのさ、直」


「ん?」


「直も携帯見てみたら?」


「携帯?」


 直が切れ長の瞳で僕を見つめる。


「うん」


「わかった」


 直も携帯を開く。


「私にも、綾とかからメールが来ている」


「そっか」


 直が携帯でメールを打ち込む。

 あまり携帯を使わない直にしては、珍しい光景でもある。


「できた」


 直が文面を見せてくる。

 書いてある内容は通り一辺倒なことだ。


「見せなくってもいいって」


「ん、そうだね」


 直は僕の言葉に納得する。


「じゃあ、送信」


 携帯を持った手を振り回しつつ送信のボタンを押す直。

 それを見て、笑いがこみあげてくる。


「春。笑った?」


「笑ってないよ」


「ううん。笑った」


「笑ったかもね」


 僕はごまかすためにそっぽを向く。

 直はしつこく追求してくる。


「春」


「まあ、落ち着いて」


「だって笑った」


「笑ってないって」


 どうも納得がいっていない直。

 直の機嫌を損ねないようにあることを聞いてみる。


「直。今日の夕食は何が食べたい?」


「夕食?」


「うん」


「私が作る」


「だめ。今日一日は休みなさい」


 僕は間髪いれずに返答をする。

 そのせいか少しだけ不満を示す直。

 どうやら逆効果になってしまったみたいだ。


「じゃあ、勝手にハンバーグにするよ」 


 もちろんハンバーグには豆腐をつなぎに使うことが確定している。


「いいね?」


 念を押す。


「春の好きにして」


 直はそう言うが、大好物であるハンバーグの前に喜びを隠せない。

 無表情ながらもかなり喜んでいる。


「それとも、煮物を中心とした和食にしようかな」


「えっ?」


「嘘だよ」


「もうっ」


 おもわずからかってしまった僕に、直がため息を漏らす。






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