1-21 デッサン
学校に連絡して、直と僕は休みを取る。
中学に入ってから学校を休んだのは、家のごたごたがあった一年生の時以来。病気で休むのは小学生の頃までさかのぼる。
朝食を食べた後、直は布団に横になる。
僕は直の様子を見ながらも、近くで勉強を開始。
昨日の勉強会でマリアさんに教えてもらったところを復習して、約一時間が経過した。
「春」
「何?」
「暇かも」
「病人だから寝ていないと」
「絵描いていい?」
「絵?」
「うん」
直がこくりとうなずく。
「具合大丈夫なの?」
「昨日よりはずっといいみたい。だからいい?」
「そっか。じゃあしょうがないな。いいよ」
結局、僕は許可してしまう。
要するに、直の熱意に負けてしまったのだ。
「やったぁ」
直は起き上がり、ハンガーに掛けてある制服の徽章近くのポケットからメモ用紙を取り出す。
そして、ペンも一緒に取り出して準備万端。
「春、それでお願いがあるんだけど」
「うん」
直のお願いときたら、それが何かはもう決まっている。
スケッチに関することに違いない。
「これでいい?」
僕は背筋を伸ばして、勉強する姿勢を保つ。
これはポーズをとっているのだ。
「ん。オッケー」
そして直はデッサンを開始。
全てを見透かしてしまいそうな切れ長の瞳が僕を見つめる。
いつもと変わらない直の視線だ。
「出来た?」
「もう少し」
二、三分置いてまた聞く。
「そろそろ?」
「もうちょっと」
いつもより長い直のデッサン。
なぜかわからないけど、気合が入っているのかもしれない。
さらさらとペンを走らせる音がよく聞こえる。
「よし、出来た」
その直の言葉を聞いて、僕は肩の力を落とす。
時間が長かったせいか、いつも違った感覚がある。
「今日は時間かかったね」
「うん。デッサンは早く書くのがとりえなんだけど、なんか時間をかけたくなった」
「そうなの?」
「そう。なぜだかわからないんだけど」
「そっか。まあ、とりあえず見せてよ」
「ん」
直の書いたメモ帳を渡されて見ると、確かにいつもより時間がかかるのもわかるほどの出来栄えだ。直の特徴でもある、写実的な面も良く出ている。
「やっぱり上手いな」
「ありがと」
若干、得意そうな直。
「でも、ちょっと疲れた」
「まだ治ってないからね」
「ん。それに集中力も使うから」
「たしかに集中力は使いそうだ」
デッサンをかき終えた直は、また布団に横になる。
「そういえば、熱測った?」
「測った」
「いくつ?」
「三十七度三分」
「下がったね」
「微熱?」
「そうだよ」
と、僕は言う。
今度こそ正真正銘の微熱だった。




