1-20 分身
翌朝、月曜日。
いつもは直に起こしてもらう僕も、今日はさすがに自分で起きる。やろうと思えば簡単に出来るもので、ずいぶんあっさりと目覚めることに成功する。
隣を見ると、直はまだ眠っている。
息苦しそうに寝返りをうっていて、額には汗をかいている。
まだ、風邪は完治していないのかもしれない。
僕はカーテンを開けることを自重して、洗面所に向かう。顔を洗い、着替えをして、朝ご飯作りを開始する。
そして、お味噌汁を作っている最中に直が起きてきた。
「春」
パジャマのそでで目をこすりながら、僕を名前を呼ぶ。
「直、おはよ」
「うん、おはよ」
「まずは体温を測って」
僕は直に体温計を渡す。
直は大人しく、体温を測り始める。
しばらくして、ピピッと音が鳴る。
「何度?」
「三十七度五分」
「まだあるね」
「ん」
直がかしこまってうなずく。
「今日、学校はどうしよう」
「その熱なら無理かな」
「でも、行きたい」
「だめなものはだめだよ」
僕は即座に答える。
「じゃあ、春は?」
「僕?」
「うん」
「もちろん行くもんか。直の看病と暇つぶしの相手になるさ」
「いいの?」
直が身を乗り出して聞いてくる。
「いいんだ。当たり前だよ」
「学校の勉強は?」
「昨日、勉強の貯金をたくさんしてきたから」
「けど、しすぎてもしすぎることはないよ」
「じゃあ、しなくてもしなさすぎることはないね」
「今の意味不明」
直が無表情で笑みを浮かべながら言う。
「とにかく、僕は直の看病をするって決めたんだ」
これは昨日からずっと考えていたことだ。
病気をしている時、一人でいるのは心細い。
心細いのはさびしくて、気分まで鬱々してくる。
「それとさ、もし酷くなったら、誰も直を病院に連れて行けないじゃないか。そうなったら困るよね」
「ん。でも、これ以上酷くはならないと思う」
「ほんと?」
「うん。回復に向かっている」
「それは良かった」
直がそう言うのだからきっとそうだろう。
けど、今日一日は学校を休むことに決めていた。
安静という言葉がある。
「ところで直」
「ん?」
「朝ご飯は食べれるよね」
「あ」
直がすっとんきょうな声をあげる。
「何? どうしたの?」
「料理しないと」
「まだだめだよ、直」
直は無言で不満を表す。
「うっかり包丁でも落としたら大変じゃないか」
「でも」
「だめなものはだめ」
「じゃあ、せめて私の代わりにこれ」
「え?」
「私の分身」
「直、そこまではちまきに思い入れないで」
これは美咲さんに責任を取ってもらう必要がある。
直をはちまき好きにした責任を。




