表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/176

1-20 分身





 翌朝、月曜日。

 いつもは直に起こしてもらう僕も、今日はさすがに自分で起きる。やろうと思えば簡単に出来るもので、ずいぶんあっさりと目覚めることに成功する。


 隣を見ると、直はまだ眠っている。

 息苦しそうに寝返りをうっていて、額には汗をかいている。

 まだ、風邪は完治していないのかもしれない。


 僕はカーテンを開けることを自重して、洗面所に向かう。顔を洗い、着替えをして、朝ご飯作りを開始する。

 そして、お味噌汁を作っている最中に直が起きてきた。


「春」


 パジャマのそでで目をこすりながら、僕を名前を呼ぶ。


「直、おはよ」


「うん、おはよ」


「まずは体温を測って」


 僕は直に体温計を渡す。

 直は大人しく、体温を測り始める。

 しばらくして、ピピッと音が鳴る。


「何度?」


「三十七度五分」


「まだあるね」


「ん」


 直がかしこまってうなずく。


「今日、学校はどうしよう」


「その熱なら無理かな」


「でも、行きたい」


「だめなものはだめだよ」


 僕は即座に答える。


「じゃあ、春は?」


「僕?」


「うん」


「もちろん行くもんか。直の看病と暇つぶしの相手になるさ」


「いいの?」


 直が身を乗り出して聞いてくる。


「いいんだ。当たり前だよ」


「学校の勉強は?」


「昨日、勉強の貯金をたくさんしてきたから」


「けど、しすぎてもしすぎることはないよ」


「じゃあ、しなくてもしなさすぎることはないね」


「今の意味不明」


 直が無表情で笑みを浮かべながら言う。


「とにかく、僕は直の看病をするって決めたんだ」


 これは昨日からずっと考えていたことだ。

 病気をしている時、一人でいるのは心細い。

 心細いのはさびしくて、気分まで鬱々してくる。


「それとさ、もし酷くなったら、誰も直を病院に連れて行けないじゃないか。そうなったら困るよね」


「ん。でも、これ以上酷くはならないと思う」


「ほんと?」


「うん。回復に向かっている」


「それは良かった」


 直がそう言うのだからきっとそうだろう。

 けど、今日一日は学校を休むことに決めていた。

 安静という言葉がある。


「ところで直」


「ん?」


「朝ご飯は食べれるよね」


「あ」


 直がすっとんきょうな声をあげる。


「何? どうしたの?」


「料理しないと」


「まだだめだよ、直」


 直は無言で不満を表す。


「うっかり包丁でも落としたら大変じゃないか」


「でも」


「だめなものはだめ」


「じゃあ、せめて私の代わりにこれ」


「え?」


「私の分身」


「直、そこまではちまきに思い入れないで」


 これは美咲さんに責任を取ってもらう必要がある。

 直をはちまき好きにした責任を。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ