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1-12 オアシス






「す、すいません。坂本様」


「……」


「私、時々こうやってドジをやらかしてしまうんです」


 マリアさんが僕の前で折り目正しい土下座をする。

 というのも、マリアさんは持ってきたアイスティーをひじで倒してしまい、僕にそれがかかってしまったから。


 特に被害が酷かったのはズボン。

 品のない言い方をすれば、股間付近がオアシスだ。

 後、Tシャツも若干透けている。


「マリアさん」


「はい」


 沈んだ声が聞こえる。


「とにかく顔を上げてください」


「さ、坂本様」


 マリアさんは演技ではなく、本当に申し訳なさそうな顔をしている。


「それで、えっと」


 僕は先ほど言われたことを思い出す。


「待っている間にお風呂に入ればいいんですね」


「はい。そのあいだに坂本様の洋服をしっかりと洗濯して、その後、乾燥機で乾かしたいと思っていますので」


「そうですか」


「はい」


「でも、そんなに高速で出来るものなんですか?」


「そうですね」


 考えこむマリアさん。

 結論が出たのか、こんなことを言う。


「あの、少し長めにお願いします」


「わかりました」


「ありがとうございます」


 マリアさんは僕から視線を逸らしつつ告げる。

 視線を逸れているのは、今の僕が渡されたタオルをかぶっているだけの状態のせい。


 女の子二人の前で服を脱ぐのは羞恥の極みだったけど、そんなことを考慮している場合ではない。

 まあ、奇跡的にパンツが無事だったのを不幸中の幸いとしてとらえるべきだ。


「綾」


「何?」


「あのさ」


「うん」


「お風呂借りるから」


「も、もちろんいいわよ」


 綾はさきほど話題になったぬいぐるみを抱いて、ベットの方にぼふっとうつぶせに倒れ込んでいる。

 耳が赤くなっているのは、恥ずかしいからか。


 けど、こっちの方が恥ずかしい。

 なにせ、この格好だ。


「マリア」


「はい、お嬢様」


「貴女が連れてってあげてね」


「わかりました。でも、どこの浴場ですか?」


「私の部屋の近くのお風呂で」


 どうやら綾の部屋の近くにお風呂があるらしい。

 というよりも、お風呂がいくつもあるものなのか。

 ちなみに東風荘には一つもない。


「あ」


「どうしました、お嬢様」


「ちょっと待って」


「お嬢様?」


 やにわに綾が立ちあがり、部屋を出ていく。

 そして、廊下を走っている音が聞こえる。

 おそらく浴場に向かっているに違いないだろう。






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